独占欲強めな御曹司に最愛妻として求められています~今夜、次期社長は熱烈求婚を開始する~
おまけ話2 王子様はプロポーズを上書きしたい
おまけ話 その2

エピソード的には 28「挨拶」の後あたりでしょうか。


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「良かったな、奏汰」

「色々世話をかけたな」

 ある金曜の夜、仕事を終えた羽野奏汰と崎本賢吾は馴染みの飲み屋で向かい合いながらカチリと軽くグラスを合わせる。

 会社の最寄り駅に近く、一つ路地を入った所にあるこの店は取り扱っている酒の種類が多く、食事は唐揚げや厚焼き玉子など定番のものがきちんと美味しい。
 落ち着いた雰囲気で居心地も良く、入社当初から男ふたりで飲むときは殆どこの店と決めている。

 スーツのジャケットを脱ぎ、Yシャツの袖口を捲り、ネクタイを少しだけ緩めたサラリーマンにありがちな姿なのだが、ふたりの上質でスマートな出で立ち、端正すぎる容姿と大人の色気を纏った雰囲気に、店内から少なからず――特に女性から注目を浴びているのだか、ふたりとも慣れているのか意に介していない。

 今夜はそれぞれの婚約者である安藤雫と三上沙和子が「女子会」をするということで、あぶれた者同士……仕方無くと言っては何だが、男2人で飲むことにした。

 雫と想いを通わせ、彼女を本当の婚約者にする事が出来た奏汰は早々に双方の両親に挨拶に行き、オーダーした婚約指輪も数日後に出来上がる予定だ。
 後は社内外に彼女と結婚すると公にすればいいだけ。とにかく幸せを実感している毎日だ。

「お前と三上さんが気を利かせてくれなかったら、俺は彼女に完全に逃げられてたかも知れないからな」

 奏汰は素直に感謝の気持ちを伝える。

「攻め方が回りくどいんだよ、奏汰は。ま、どちらにしても両想いならくっ付いてたと思うけどな」

 賢吾は半分ほどになったグラスを片手に何でも無いように言う。

 賢吾は入社当時煙草を嗜んでいた。ヘビースモーカーでは無かったが、こういう飲みの席では必ず吸っていた。それが三上沙和子と出会ってすぐに、アッサリと禁煙した。

 理由は彼女が煙草の匂いが好きでは無いから、らしい。

 当時は、好きな女性の為にそこまで必死になる賢吾に少なからず驚いたものだ。
 彼も自分と同じく女性について淡白で、深入りするタイプでは無かったから。

――今じゃ、その気持ち痛すぎるほどわかるけどな。

雫を手に入れようと必死だった自分を思い返し、心の中で苦笑する。



「で、どうやってプロポーズしたんだ?」

「え?」

 奏汰が突然何を言い出すんだと言う顔で見ると、賢吾はニヤリと笑う。

「王子様のプロポーズはさぞかしスマートでロマンチックなシチュエーションなんだろうなと思って」

 賢吾は普段、感情をあまり揺らさない親友をからかう絶好の機会だと思っているのだろう。

「……」

 しかし、奏汰は答えない。グラスを持った手も止まり黙ってしまった。

「……奏汰?」


(プロポーズのシチュエーション?)


――事後の朝、ベッドの上にて、だ。

 全くもってスマートでもロマンチックでも無い。

 彼女は初めてだったのに、家出からの大逆転で想いが通じ合ったのが嬉しかったのと、共に暮らしながら手を出せず、我慢を重ねていたストッパーが一気に外れた自分(よくぼう)を止められなかった。

 疲れ果てて眠る彼女に『寒いと良くないよな』と、謎に自分に言い訳をしながら自分のシャツを素肌に羽織らせてシャツごと抱きしめて眠った。

 そして可愛すぎる『彼シャツ』一枚状態で腰が立たない彼女をベッドに座らせ、自分もほとんど素っ裸の状態で

 本当の婚約者になって欲しい。と


「お願い……したな」

「奏汰?」

 しかもプロポーズを受けて貰ったのが嬉しかったのと彼女の姿が可愛すぎるのに浮かれて
その後風呂に連れ込んで……

――あれ、これってちょっとマズく無いか?

『プロポーズのシチュエーション』は今後、ふたりの事を公にすれば、こんな風に周囲から好奇心で聞かれる事もあるだろうし、将来子供が生まれたら
『パパはママにどうゆう風にプロポーズしたの?』と尋ねらるだろう。

――彼女の子供はきっと、とんでもなく可愛いだろう。男の子でも女の子でも。
 幼い子供を膝に乗せて柔らく笑う雫。もちろんその隣には自分が居て……

 微笑ましい一家団欒光景を想像して口元が緩みそうになる。

「おい奏汰!」

 いよいよ訝し気に低くなる賢吾の声で花畑に行きかけていた意識が戻ってくる。

「……人のプロポーズのシチュエーションなんか聞いて面白いか?じゃあ、お前はどうだったんだ?」

 冷静を装いつつ誤魔化すように言う。

「俺?俺は、まあ…………普通だな」

「へぇ、普通ね」

 やけに間があったのが気になるが、あまり追及するとこちらが墓穴を掘りそうなのでやめておく。

 自分なら上手く言い繕う事など訳はないが、素直な雫は尋ねられる度、あのシチュエーションを思い出して恥ずかしい思いをするのでは無いか。

 しまった。と、奏汰は思う。

 大概の事は手堅く卒なくこなして来れたと思っていたが、彼女の事になるとこうして肝心な所で冷静さを失う。

 プロポーズを受けて貰ったことに浮かれ続け、今までこの事実に思い至らなかったのだ。

 あれでも真剣に気持ちを込めて伝えたつもりだ。

 でも一生に一度。

 もっと、きちんとしたシチュエーションでプロポーズすればよかった。

 それこそ王子が姫に結婚を申し込むように。



――いや、でもまだ……






「でさ、雫、どんな風にプロポーズされたの?」

「えっ?」

「あの羽野さんでしょ。どれだけ素敵なプロポーズだったのかなって」

「……」

「雫?」

「さ、沙和子こそっ!そういえばちゃんと聞いて無かったわよね。崎本さんにプロポーズされた時の話」

「え、ウチはまぁ………………普通よ」

「沙和子、顔が赤いけど、あと、普通って何?」

「ねぇ、そういう雫も真っ赤よ」



――それから数日後、雫は奏汰が考えに考え抜いたシチュエーションで婚約指輪を受け取る事になる。

「これを公式のプロポーズにしてもらっても良い?」


「ふふ……はい。でも一回目もすごく嬉しかったですよ?」


 ふんわりと奏汰に抱きしめられながら、雫は幸せそうに笑ったのだった。


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