未明の三日月 ~その後

「でも、このほかに 佳宏の賞与とか 貯めてあるから。こっちを全部使っても 空っぽにはならないからね。」

年々、佳宏の所得は 増えていたから。
 


佳宏の収入だけで 子供達二人の 高い保育料を払っても 余裕のある生活ができた。


子供達が 風邪気味の時は 病児専門の ベビーシッターを 美咲は利用した。


休日は外食して 年に何回か 家族旅行もした。


でも佳宏には 余るくらいの収入があった。
 



「美咲、ありがとう。仕事して 家計のやりくりも完璧で。美咲 最高。」

佳宏は 少し声を震わせて 美咲を抱き締める。
 
「佳宏が 仕事、頑張っているからだよ。」


美咲も 佳宏への感謝で、胸が熱くなる。
 

「40才前に マンション買って。しかも タワマンのハイフロアーで。すごい勝ち組だね 俺達。」


佳宏の言葉に 美咲は涙を抑えられない。
 

「うん。それに夫婦円満で。毎日、楽しくて。私、ただの勝ち組じゃないよ。最高に 幸せな勝ち組だよ。」


泣きながら、途切れ途切れに 美咲は言う。


美咲の頭の上で、佳宏が鼻を啜る。
 

「佳宏、泣いているの。」


美咲が そっと顔を上げると、佳宏は 涙を流していた。
 


「いいの。見ないで。」


佳宏は 美咲の頭を 胸に押し付ける。


美咲は声を上げて、泣きじゃくってしまう。



佳宏が与えてくれた 幸せな生活。



それを 佳宏は、涙を流すほど 喜んでくれた。


認められ、満たされていく思い。
 



「美咲、もう泣かないで。俺、また頑張るからね。」



佳宏は、美咲の髪で 自分の涙を拭って言った。
 
 


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