【女の事件】とし子の悲劇・2~ソドムの花嫁
第62話
8月21日は、8月の終わりが近いと言うのに最高気温が40度近くまで上がっていたので、うずれる(うんざりするほど暑い)日であった。

それと比例するように、不快指数もめちゃめちゃ高いので、もっともうずれる日であった。

そんな時に限って、よくないことが起こりそうな気がした。

ところかわって、ダンナが勤務しているセメント製造工場にて…

始業前の朝礼のときに、事業所の社長さんが従業員のみなさまに重大発表があると言うてから、こう伝えた。

「今日はみんなに重大発表があるのでよく聞いておいてください…」

社長さんの表情が、いつもと違って悲しい表情であった。

従業員さんたちの間に、不安が広まった。

「みなさまもお聞きの通りかと想いますが…8月分より従業員さんたちのお給料が数千円減ることになりました…当事業所もオリンピック景気をピークに、売り上げが大きく落ち込んで、経営状況が思わしくない状況におちいってます…そのため、少しでありますが人員整理を行います…遅くとも9月中旬までに…人員整理の対象になる従業員さんに解雇の予告の書面を出します…私どもは…経営努力を積み重ねてきたが…限界…すみませんでした…人員整理になった原因を作ったのは、私の責任です…平日ゴルフも、政治家先生との接待も、私の孫の来年のお年玉もみーんながまんします…この通り…許して…」

社長さんは、従業員さんたちの前で泣きながらおわびをした。

従業員さんたちは、みな白けた表情になっていたので、社長さんの言葉は従業員さんたちにとどいてなかった。

この日、ダンナはひどい夏風邪をこじらせたので、朝礼の後早々と帰宅した。

その日の夕方6時頃のことであった。

アタシは、高松市内のデリヘル店の女のコの待機部屋にいて、出番が来るのを待っていた。

白のブラジャー・ショーツ姿のアタシは、鏡の前に座って、メイク落としがしみこんでいるコットンでメイクを落とした。

春野町のダンナの家を飛び出してから1ヶ月が過ぎたけど、アタシの気持ちは今もズタズタに傷ついたままである。

アタシは、鏡を見ながらメイク落としをした後、大きくため息をついた。

アタシはこれから…

どうやって生きて行こうか…

アタシの気持ちは、なおも迷い続けていた。

その頃であった。

ところ変わって、春野町のダンナの家にて…

家の食卓に、ダンナとけいぞうさん夫婦の家族の4人が集まって、奥さまの手料理を食べていた。

テーブルの上には、白のごはんとみそしるとひじきときんぴらごぼうとたくあん漬けと青菜のおひたしが置かれていた。

ダンナは料理を食べていなかったので、奥さまが心配げな声でダンナに言うた。

「おじさま…どうかなされましたか?」

けいぞうさんの奥さまの呼びかけに対して、ダンナは泣きそうな声で『食べたくない…』と答えた。

「ごはんがおいしくない…」
「それじゃあ、1品だけでもいいから、なにかお食べになられたらどうですか?白いごはんにふりかけをかけてあげるから…」
「ふりかけごはんもいらない!!」
「どうして食べないのですか!?食べなかったらお腹がすくだけではなく、病気の回復も遅れてしまうのよ!!」
「いらないことをするなと言うのが聞こえないのか!?」

ダンナが怒号をあげたので、けいぞうさんの娘さんがビヤーと大声で泣き出した。

けいぞうさんの奥さまは、娘さんをなぐさめるために席を外した。

「ごめんね…ごめんね……よしよし…」

けいぞうさんの奥さまと娘さんが席を外れてしばらくたった時、けいぞうさんは心配な声でダンナに言うた。

「おじさま…どうかなされたのですか?」
「何でもない!!ちょっとイライラしただけだ!!」
「だからと言って、何も大声を張り上げることはないと思いますが…」
「うるさい!!だまれ!!」
「おじさま…」
「今日…会社から私に会社をやめろと言われた!!明日から、無断欠勤する!!」
「それじゃあ、まさおさんの大学はどうするのですか?」
「やめさせる!!」
「やめさせるって…」
「やめさせると言ったらやめさせる!!まさおと言い、ふじおと言い…甘ったれている!!とし子のせいで、オレは会社をクビになった…とし子は一生うらみ通してやる!!」
「おじさま!!あんまりですよ!!どうしてとし子さんのせいにするのですか!?」
「だまれ!!同居人のブンザイでワシに意見するな!!けいぞうこそ何だ!?オドレが高知大学に行っていた時の授業料は誰が出したと思っている!?あればふじおの学資保険を解約した分だと言うことを忘れたのか!?オドレと嫁さんの結婚のお祝いや挙式披露宴の費用も、もとはと言えばふじおの学資保険を解約した分なんだぞ!!ふじおの学資保険を解約させて、自分だけ幸せになった…ふじおが高校中退したのはオドレのせいだ!!」
「おじさん!!あんまりだよ!!母子家庭でつらいおもいをしているぼくにと援助してくださった時…ぼくはきちんとおじさんにお礼をしたのだよ…妻の出産の時のお祝いのお返しもきちんとしたのですよ…」
「それじゃあ、オドレはいくら返した!?1000円ぽっちしか返していないじゃないか!?」
「その時は、お給料が減っていたのです…」
「いいわけばかりを言うな!!オドレがのらりくらりとしていたから、お給料が減ったのだ!!ひとのせいにするな!!明日の朝、この家から出てゆけ!!オドレらもヤクビョウ神だから出てゆけ!!」

ダンナは、けいぞうさんにヤクビョウ神呼ばわりしたあと、言葉の暴力をぶつけ回した。

その後ダンナは、冷蔵庫から500ミリリットル缶のアサヒスーパードライとニッカウヰスキーを取り出して、タンブラーの中に二つをミックスして入れた。

ダンナはとうとう…

自分さえよければいい男になったので…

もう、アカンみたいね…
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