結婚前提で頼む~一途な御曹司の強引な求愛~
「あのねえ!」

ここできちんと言っておかないと変な噂を流されかねない。今まで、中間報告を彼女たちにしてこなかった私も悪いけど、榛名先輩への気持ちを脚色されて伝えられるのは困る。

「あ」

佐橋くんが口を開いた。その口調と表情から、私はぞっとしながら、彼の視線の先を追う。
自販機スペースの入り口にいたのは榛名先輩だった。
聞かれた。今の話。

「榛名先輩!」

無表情のまま踵を返す先輩に叫ぶ。かほと花凛、佐橋くんが『やばい』と言う顔をしている中、私は去っていく先輩を追いかけた。

「先輩待ってください!」

エントランスを出て、先輩は歩いていく。私はどうにか追いすがり、通せんぼするように前に躍り出た。

「傑さん!」

榛名先輩は見たこともないくらい静かな表情をしていた。湖の水面みたい。波紋もなく、動かず、木々の陰を映してただただ暗い。
私は自分がとんでもないことをしてしまったのだとようやく思いいたった。

「傑さん……」

震える声で名前を呼ぶ。弁解したい。だけど、さっき彼が聞いてしまったことの多くは事実でもある。

「無理をさせてすまなかった」

榛名先輩は静かな口調で言った。感情の挟まらない低い声だ。

「おまえにとっては指導係で先輩、断りづらかったんだな。それに、付き合ってなお、俺は優しい先輩にはなれなかった。アテが外れただろう」
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