青春ヒロイズム


「深谷のこと、『嫌いだ』なんて言った覚えは一度もないよ」

不機嫌そうにつぶやく星野くんの言葉と態度が伴っていなくて、彼の本意がわからない。

私、星野くんに嫌われてるの?嫌われてないの?

混乱して首を傾げる私を、星野くんが横目にジッと見てくる。


「この前は聞かないでおこうって思ったけど、聞いていい?深谷、この学校来る前に、何あった?」


真剣な目をした星野くんに、改まった口調で訊ねられて困った。

星野くんは、花火大会の翌日に、ナルから私が前の学校を辞めた理由を聞かされているんじゃないの? 

それでももう一度、私に『あのこと』を話させたいのかな。

既に知られているのなら、今さら星野くんに話したところで何も変わらない。

溜まった気持ちを話してしまえば少し楽になるかもしれない。

でも、このまま何も言わずに忘れて去ってしまいたいという思いもある。

せめぎ合うふたつの気持ちのあいだで迷っていると、星野くんが静かに言った。


「今西が言ってた、傷害事件て何?」

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