本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
…多分、いや絶対に近い程、私の事を指しているのだと思うけれども、違っていたらショックを受けて沈むのは私だ。

支配人の隣に堂々と立つ為には、恥を欠かせる事がないように職場でも一流のサービススタッフにならなくてはいけない。

現段階で一流のサービススタッフになる近道はやっぱり、アレだ。

アレしかない。

「支配人…私、バトラー目指します。ベッドメイクと婚礼サービスとかの仕事も楽しいですけど…もっともっと人と触れ合うサービスをしたいんです。一流のサービススタッフになれるように頑張りますから…」

決心を固めたのは、貴方に相応しい仕事の出来る女性になりたいからだなんて、口が裂けても言えない。

元々、お客様との触れ合いは大切にしてきたし、サービススタッフとして成長したいのも確か。頼ってばかりいたら、本気になってくれる前に呆れられてしまうもの。

職場での人間関係は後回しで、今は自分が出来る事を精一杯頑張ろう。

「いきなりどうした?でも、そうと決めたなら頑張れよ」

支配人はいつになく優しい笑みを浮かべて、段取りをしてくれると言った。

予定としては三ヶ月間、本店で研修をしてからこちらのホテルでのプランを企画するそうだ。

「所有期間がまだ半月以上はある。ゴールデンウィークのピークが過ぎたら、本店に送り届ける。それまでに準備をしておけよ?」

「はい、よろしくお願いします…」

朝食後、寮に戻って着替えをして、先日の待ち合わせ場所で再び会う。

春の暖かい陽射しと新緑に癒され、車でドライブをした後は、夕食を二人で作って食べて、誰かに見つからないか冷や冷やしながら寮付近まで歩きで送ってもらった。

恋人同士のデートと変わらない過ごし方。キスまで交わして、同じベッドで眠りについたが、恋人だと確定はされていない曖昧な関係。

バトラー研修に行った三ヶ月後には、何事もなかったかのように振り出しに戻っているかもしれないけれど…、今の子供じみた中身の自分では想いを伝える事なんて出来ない。

精一杯、努力して釣り合いがとれる女性を目指そう───……
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