あなたの名前を呼びたい〜声を失った歌い手〜
伊久巳さんはどうやら歌い手仲間にもあたしのことを話したらしい。伊久巳さんに他の有名な歌い手さんを紹介されることもあった。

「あたし、いいんでしょうか。人気のない歌い手が人気の歌い手さんたちと会っちゃって」

あたしがそう言うと、伊久巳さんは「大丈夫。だってひなみちゃんは俺たちと同じ歌い手だし、みんなひなみちゃんのファンだからさ」とあたしの頭を撫でてくれた。

伊久巳さんは、よくあたしの頭を撫でたりする。あたしが歳下だからかなって最初は思ってたけど、何か違う気がするんだよね。

伊久巳さんは大人の男性で、落ち着いている。だからかな。会うたびにあたしの胸はドキドキして、気付いたら好きになってたんだ。

「ひなみちゃん?何考えてんの?」

伊久巳さんの家で映画を鑑賞することになった日、ドキドキする胸を押さえていたらヒョイと顔を覗き込まれた。近い距離にドキドキしちゃう。ヤダ、このままじゃ全部見透かされるような気がしてーーー。
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