強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~

タワマンとキスマーク


世の中というのは恐ろしい。
 
今日の朝まで親元で暮らしていたというのに、何がどうして彼氏でもない八雲さんと“同棲”することになってしまったのか。当初の予定と全く違う状況に言葉も出ない。

「はい、芳奈。当分の着替えなんかは入れてあるから。またおいおい送るわね」
 
大きなスーツケースいっぱいの荷物を渡され、これは夢ではなく現実のことなんだと天を仰いだ。

「お母さん、ほんとにいいの? 私がいなくて寂しくない?」

「全然。だって一生の別れじゃないんだし、女の子は好きな人と一緒にいるほうが幸せなのよ」

「幸せ……」
 
母の言うとおり。好きな人と一緒なら、それはとても幸せなことだと思うけれど。

今の私たちはお互いに、好きとか愛してるとかそういった存在ではない。ひとり暮らしを飛ばして八雲さんと同棲なんて、誰がどう考えたっておかしい。

でも今この家には、それをわかってくれる人は誰もいなくて。頼みの綱だった八雲さんまでもが母に感化され、同棲する気満々だから怖い。












< 107 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop