強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~

「いや、別になんでもない。それで?」

「父に相手は誰なんだ?とか問い詰められてるうちに、話の流れがおかしくなって。最終的にはクリキホールディングスの副社長と付き合っていると、勘違いされてしまって……」

「マジか? クリキホールディングスの副社長と……。それはまた、とんだ勘違いをされたな」

ほんと、とんだ勘違いだ。どうしたものかと男に目を向ける。でも彼は何が可笑しいのか、肩を震わせて笑っていた。

「笑うなんてヒドい。他人事だと思って……」

「悪い。かなり面白い話だと思って。で、どうするつもりなんだ?」

「それがわかっていたら、こんなに飲んでないでしょ。もうどうしていいのか、見当もつかないわよ……」
 
なんで、こんなことになってしまったのか。

あの父のことだ、すぐに副社長を連れてこいと言い出すに決まっている。代役を頼む人もいないし、そんなことをしたって無駄だってこともわかっているから余計に頭が痛い。

「ホント、どうしたらいいのよぉ……」

自分で自分に問いただし、カウンターテーブルに肘をついて頭を抱える。いっそこのまま消えてしまいたい──そう思った時、天から声が落ちてきた。

「芳奈。俺がお前の恋人になってやる」
 
耳を疑うような言葉に顔を上げる。

今この人、私の恋人になってくれるって言ったよね? それって本気で言ってる? もしそうだとしたら、そんな有り難いことはないけれど……。

一応確認しようと口を開くが、思うように動かない。ん? なにかおかしい?

と次の瞬間。目の前にいる男性の顔がぼやけはじめ、あっという間に意識が途絶えた。



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