強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~

梅岡芳奈(うめおかかんな)、二十三歳。

二週間ほど前に購入したピンクのラグジュアリードレスに、バックスタイルをキュートに見せてくれるリボンの付いたパンプス。肩まで伸びた髪はハーフアップにまとめ、首元には真珠のネックレスと揃いのイヤリング。普段ほとんどしないお洒落をしてキメてきたのは、他でもない今日の主役のため。

会場の入口には【梅岡秀治郎(しゅうじろう)社長の還暦を祝う会】と書かれたボードがあって、それを横目で見ながらその場を足早に駆け抜けた。

梅岡秀治郎は何を隠そう私の父であり、国内最大手『四星(よつぼし)百貨店』社長。今日の還暦祝いの主役その人だ。

還暦を祝う会を知らされたのは、ちょうど一ヶ月前。父の秘書である永田さんが私の部屋にやってきて、一通の封筒と『強制参加でございます』と不穏な言葉を発した。

「な、何よ、強制参加って!」

そう叫んでも彼は表情ひとつ変えず、眼鏡のフレームをクイッと上げて無言で去っていった。そのあと封筒を眺め、部屋でひとり途方に暮れたのを今でもはっきりと覚えている。
 
できれば父と、顔を合わせたくないんだけれど……。







< 2 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop