ボクの『妹』~アイドルHinataの恋愛事情【4】~

04 『妹』を全力で守るのが、『兄』ってもんでしょ。

 
 奈々子たちを取り囲む芸人の群に近づいて、タイミングをうかがう。
 
「ねぇねぇ、なーこちゃん、メアド教えて? いまの写メ送るからさっ」
 
 おい、そこの若手芸人っ。そーいうのを『身の程知らず』って言うんだよっ。
 
「あ、すんません、あたし、ケータイ持ってないんっすよ」
「ええ? いまどき? マジで?」
 
 そんなの、断る口実だっつーの、気づけっ!
 
「次、オレと写メ撮ってくれへん?」
「おまえ、さっき撮ったやないか? また撮るんか? そうや、なーこちゃん、オレの新ネタ見てくれへん? とっておきのが……」
「ちょぉっと、すいませんっ! 盛り上がってるとこ、失礼しまっす!」
 
 ボクはくだらない新ネタ披露大会が始まるのを阻止した。
 
「みなさんばっかり、ズルイっすよ。ボクらも、なーこちゃんたちとお話したいなって思ってたんですからっ。歌番組で共演しても、話す機会ないんだよねっ」
 
 ボクと直くんは、『営業スマイル』を作った。
 若手芸人たちは、『ハギーズのHinata』に怯む。
 
「と、いうわけで、このふたりお借りしますねっ! なーこちゃん、SHIOちゃん、おいで」
 
 今度は、二人に向かって『営業スマイル』。
 
「あ、はいっ。……ほら、SHIOも、いこ?」
 
 奈々子は、SHIOちゃんに促す。
 
「わ、わたしは……」
「せっかく声掛けてもらったんだし、行こうよっ。じゃっ、みなさん、また後でお話してくださいねーっ」
 
 奈々子も『営業スマイル』で若手芸人に挨拶すると、ためらうSHIOちゃんの腕を掴んで引っ張った。
 
「なーこちゃぁん、また後でねぇー!」
 
 後方から、若手芸人たちの名残惜しそうな声が聞こえてきた。
 
 
 
 
 芸人の群れから脱出すると、奈々子は小さな声でボクに言った。
 
「あ、ありがとっ」
 
 いやいや、かわいい『妹』のためだから、ね。
 心の中でそう言って、奈々子の肩を軽くたたいて笑った。
 
「じゃぁ、座って。ボク、ドリンクもらってくるけど……何がいい?」
「あ、あたしも一緒にいくっ!」
「SHIOちゃんは、何がいいかな?」
 
 ボクが問いかけると、SHIOちゃんは眉間にしわを寄せた。
 ……あ、ボクみたいな軽い調子なヤツは苦手かな?
 
「あの……きょうは、高橋さんはいないんですか?」
 
 あ、そっか。
 奈々子の相方なんだから、当然『あのこと』は知ってるはずだ。
 
「今日はね、あいつ映画の撮影で来てないんだ。だから、大丈夫だよ」
「……大丈夫?」
 
 ボクの言葉に、SHIOちゃんは眉間のしわをさらに深くした。
 ……あれ? 何で?
 
 
 
 
「なぁ、おまえ、SHIOちゃんに話してないの?」
 
 カウンターでドリンクをオーダーし、周りの様子を確認したあと、待っている間に奈々子に聞いてみた。
 
「え? 何が?」
「何っておまえ……。高橋のことだよ」
「あ、……えっと……」
 
 奈々子は手を顎にあてて、目をくりくりっと動かして考えた。
 
 ……このしぐさも、少し高橋に似てるな。
 この、顎への手の当て方とか。
 
「話した……と思うよっ」
 
『と思う』って……あいまいな。
 これは……奈々子は話したと思っていても、SHIOちゃんには伝わっていない可能性があるな。
 
 ……と、すると、あの反応はなんだろう?
 あ、もしかして、高橋のファン……とか?
 
 そうだよな、あいつ、モテるからなぁ……。プライベートはからっきしだけど。
 あーあ、あいつ、もったいないことしたね、きょう来られなくて。
 SHIOちゃんって、結構あいつの好みのタイプに近いもんなぁ。
 
 ん……でも、あいつが来てたら、奈々子のことがあるから……それも困るな。
 うん。あいつ、来られなくて正解だったんだ。
 
「お待たせしました」
 
 店員がカウンターにドリンクを置いた。
 
 ボクは、SHIOちゃんの分のモスコミュールと、奈々子の『いつもの』アイスティーを受け取って、奈々子と共に席に戻ろうとした。
 
「……あ、なーこさん、ちょっといいですか?」
 
 店員が奈々子を呼び止めたので、ボクも足を止めた。
 
「なーこさんに、ちょっとお話したいことがあるんですけど……」
 
 と、店員はボクの方にちらっと視線をやった。
 
 ……あ、ボクがいない方がいいのかな?
 うーん、奈々子はこの店に最近通ってるようだし、店員から『話したいこと』があってもそれほど不思議なことでもないか。
 
 ちょっと気になるけど、ホントの『兄』でもないボクには、奈々子のことに首を突っ込む権利はないわけだし。
 
「なーこちゃん、ボク、これ持って先に行ってるね」
「え、あ、はいっ」
 
 奈々子はニコッと笑った。
 
 ……うわっ。その笑顔……か、かわいいじゃんっ!!
『妹』……恐るべしだな(何が?)。
 
 
 
 
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