からふる。~第26話~
紗彩ちゃんが寮にやって来たのは残暑が厳しい9月だった。


元お嬢様で右も左も分からない家事をなんとか習得し、健気に毎日頑張ってきた。


そんな彼女の姿に紫雄は惹かれたのかもしれない。


学校イチのモテ男と言われている紫雄がここまで本気に1人の女の子と向き合おうとしているのは初めてだから正直驚いている。


紫雄の熱烈ファンもいる中どうするのか、2人の今後には目が離せないところだが、俺はあと3ヶ月で卒業する。


丸く収まるといいけど...。



「なぁ、紗彩ちゃんと紫雄って付き合ってるのか?随分親しげだが」


「それはないね。あの2人にはまだ色んな意味で壁がある」


「壁ねぇ」


「恋愛とは常にそういうものですね」


「緑川分かるのかよ」


「いえ、分かりません」


「んだよ、それ。恋もしたこと無いくせに知ったかぶりするな。とかいう俺も小学5年生から恋を断ってるけどな。あぁ、元気かなぁ、まおちゃん...」



恋...か...。


俺たち3年は2年生よりも恋から遠ざかっている。


高校3年の間で好きな子でも出来るかと思ったけど、結局そんなこと無かったな。



「澪はモテるからカノジョいたことあるんだろ?」


「いや、ないね」


「おい、マジかよ」


「私も驚きです」


「見かけによらず奥手なんだな。でもさすがに恋したことはあるだろ?恋したことないやつに後輩たちも心配されたくないと思うぜ」


「そうだな...」



俺は黒糖まんじゅうに手を伸ばした。


1口食べたら、昔のことを思い出した。


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