たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
「なんだ?」

こちらを振り返りもせず答える。

「このまま何もせずただそばにいるだけというのも心苦しいので、家事でも何でも構いませんので、何か社長のお役に立てるようなことをさせて頂けませんでしょうか?例えば、ここに置いてある背広をハンガーにかけましょうか?」

さっきから無造作におかれた、質のいい背広が気になっていた。

彼は顔だけこちらに向ける。

「いい心がけだな。お前は俺にとっちゃ客でもなんでもないわけだし」

「ええ、そうなんです」

やや癇に障る言い方だったけれど、ここは謙虚にいくことがWIN=WINだと堪え笑顔を作る。

「ハンガーは洗面所にある。背広は悪いが俺のベッドルームにでも掛けといてくれ」

「はい、承知しました」

「あと家事だが、俺はほとんど家にいないから二日に一度家政婦に来てもらってる。申し訳ないが君の気遣いは不要だ」

家政婦ですか。どうりで掃除が行き届いてるわけだ。
そりゃ、私の気遣いは不要だわね。

自分の居場所を確保したくて提案したことも、あっさり却下されてしまった。

ますます居心地が悪いと感じつつ、思いきって言ってみた。

「今日から一日中行動を共にするようにということでこちらに来させて頂いていますが、あまりに突然のことだったので着替えも何も持ってきてないんです。今夜はとりあえず一旦家に帰ってもよろしいでしょうか?」

「家に帰る?」

「ええ、とりあえず明日も社長のおそばにいるんであれば小汚い恰好では失礼かと思いますし……」

「家に帰るなら俺の条件に反する。帰ってもいいが俺はもう二度とお前とは会わないし仕事も引き受けないがそれでいいんだな?」

そんな無茶な!!

この人は鬼だ。

女性に対して気遣うということができないんだろうか。着替えもなしで一晩ここにいろだなんて!

「じ、じゃあ帰りません!ただ、着替えだけは……」

そう言いかけた時、フワッと白いものが宙を飛んで目の前に落ちてきた。

思わずキャッチすると、社長が身に着けていたワイシャツだった?

顔を上げると、上半身裸の社長が至近距離でニヤッと笑っている。

「きゃー!」

思わず顔を両手で覆いくるりと彼に背を向けた。
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