たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
そう。

もう二度と会うことはないはずだった。

翌日の夜、昨晩の騒動を謝りにもう一度バーに行ってしまった。

それが俺の大きな誤算だったことはその時は知る由もない。

カウンターで一人、バーボンを飲む。

やはりここの酒は雰囲気も合間ってどこで飲むより気分も落ち着きうまく感じる。

しばらくすると、後部座席で軽い言い争いのような声が聞こえてきたが、もう昨晩のようなことは御免だと敢えて視線も向けずにいた。

案の定、強面のおやじが血相を変えて支払いを済ませバーから肩をいからせて出ていく。

ふぅ。

店内で殴り合いの喧嘩にならずに済んだようでよかった。

最近は血気盛んな奴が多いからな。俺も巻き込まれないよう気を付けなければならない。

その時だった。

さっきの男性の後を追うような形で、小柄なショートカットの女性の後ろ姿が見えた。

なぜだか嫌な予感がする。

あの姿に、なんとなく見覚えがあるような。

いや、ない。思い出したくない。

いずれにせよ、これはややこしいことになる予感だ。

先ほどの言い争いが聞こえた席の方に視線だけ向けると、一人の女性がうずくまるように肩を震わせていた。

何かあったか?

いや、気にしないでおこう。

そう思った時、顔を上げたその女性と目が合ってしまう。

すぐに逸らしたのに、彼女が俺のそばに走り寄ってきた。

目に涙をいっぱいためて。

まずい。

これは間違いなく巻き込まれる前兆だ。

「私が嫌がらせを受けていたのを助けて下さった女性が今、外で危ないんです!」

彼女が言うことには、その女性が嫌がらせをしていた男性と肩を付けに外に出ていったと。

昨日に続き、なんて無茶な女性だ。正義感にもほどがある。

自分が女だということを忘れているんじゃないか?

バーテンダーの方を見ると、口をへの字にして困ったような顔で首を横に振った。

二日続けてなんて日だ。

グラスに残ったバーボンを飲み干し、支払いを済ませる。

もっとゆっくり飲んでいたかったが。

バーを出てポケットに手を入れたまま、ゆっくりと階段を上っていく。

予想通り、階段の上で男の罵声が響いていた。

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