メーティスとホームズの子孫
一 ロンドンでの出会い
始まりは、その一言だった。

「透、今度ロンドンに行くから準備しておけ」

医学書の整理をしていた寄生虫学者の助手の浜田透(はまだとおる)は、「はあ!?」と声を上げた。玲奈はいつも出発ギリギリになってからこんなことを言い出す。

「何でロンドン……」

「実は、イギリスに住んでいる友達のメアリからパーティーに招待されてね。普通のパーティーなら行く気はなかったんだけど、大掛かりな謎解きがあるらしいから……」

玲奈は目を輝かせながら言う。玲奈は寄生虫の次にミステリーが好きだ。

「で、イギリスに二人で行くってことか?」

一応二人は付き合っている。ドキドキする透だったが、「いや、美咲も一緒だ」という玲奈の言葉に透は肩を落とした。

飯野美咲(いいのみさき)は玲奈の友人で、普段は看護師をしている。しかし、玲奈の助手もしているのだ。

「玲奈、呼んだ?」

コーヒーの用意をしていた美咲がひょこりと顔を出す。玲奈は「いや、透にロンドンに行くことを伝えていたんだ」と微笑んだ。その横顔はとても美しく透は見とれてしまった。
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