エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
なにしろ時刻は二十三時。終電に乗れるか乗れないかの瀬戸際だ。

知らない男性を悠長に観察している暇はない。

視界に入ってしまったので一応気にはなったものの、私には関係のないこと。

何事もなく通り過ぎようとすると、ちょうど真横まで来たところで「おい」と声をかけられ、びくりと震え上がった。

繰り返すが、二十三時である。見知らぬ男性から声をかけられ、怯えるなというほうが無理だろう。

まぁ、この時間にこんな路地を歩いている私も私で物騒だけれど、会社から駅に行くにはこの道しかないので仕方がない。

思わず肩がけバッグをギュッと抱きしめて彼を見つめる。

変質者――にしてはカッコよすぎるよねぇ……?

漆黒の艶やかな髪。うつむき加減で目はよく見えないが、すっと通った鼻筋には形のいい影ができており、端正な顔立ちがうかがい知れた。

怖くなって逃げだそうとしたところで、その男性がようやく顔を上げた。

鋭い眼差しを私に突き刺して、口を開く。


「ただいま、彩葉(いろは)。結婚しよう」


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