【女の事件】とし子の悲劇・3~翼をなくした白鳥
第14話
事件から3日後の8月9日のことであった。

武方さんは、アイツが裁判所に出廷しなかったので裁判が無期限延期になったことを聞いたので、豊平区内にあるアイツの家に行った。

武方さんがアイツの家に着いた時、玄関のドアに喪中のステッカーが貼られていたので、近所の奥さまに聞いてみた。

近所の奥さまは、武方さん『あきとがヤミ討ちに遭って亡くなったことと3日前に施設の職員さんの義妹(いもうと)さんがレイプされて亡くなった事件と水車町内で発生した隠し撮り事件で書類送検されたことがショックになって、引きこもりになった…』と話していたので、家に入ってみた。

武方さんがアイツの家に入った時、部屋中が酒のにおいで充満していたので『うう…くさい…何だこれは一体…』と言うた。

アイツは、メイテイ状態になっていた。

酒にグデングデンに酔って完全に無気力状態におちいったアイツに、武方さんはこう言うた。

「あきひろさん!!部屋中に酒のにおいが充満しているよ…あきひろさん!!しっかりしなさい!!あきひろさん!!聞こえているの!?」
「うるせえな武方!!オレはもう死にたいのだよぉ…」
「あきひろさん!!3日前は裁判所に出廷する日だったのに、あの日どこで何をしていたのですか!?」
「どこで何をしようとオレの勝手だ…コラ武方!!オレに何の落ち度があると言うのだ!?何とか言えよ!!」
「あきひろさん、それだったらどうしてあなたの言い分を伝えないのですか!?」
「言い分なんか言うても司法は味方してくれないんだよバーロー!!」
「あんた!!とし子さんは、あんたにきつい暴力をふるわれて苦しんでいるだよ!!あんたの前の嫁さんや前の前の嫁さんも、あんたからきつい暴力をふるわれてボロボロに傷ついているのだよ!!それでもあんたは悪くないと言うのか!?」
「オレはな…初めから結婚なんかしたくなかったのだよ…あきとは、最初の嫁とチンピラの男との間にできた赤ちゃんの父親になれと実家の父親が命令口調で言うたから仕方なくあきとを育てたのだよ…だから、やくざの子供は置いていけと言うて追い出した…2度目の嫁はよかった…優しくて…気立てのいい嫁さんだったのに…チクショー…チクショー…チクショー…」

アイツは、武方さんにこう言うたあと酒を1升瓶ごとごくごくのみほした。

その日の夜のことであった。

武方さんは、JRあいの里教育大駅前にあるファミマに行った。

武方さんは、バイトしているアタシにどうして裁判所に来なかったと問い詰めた。

アタシは『下らない裁判に付き合っているヒマは1分もないのよ!!』と武方さんに怒鳴り返した。

アタシは、陳列ケースに新しくきたお弁当を並べながら武方さんに言うた。

「武方さん!!アタシは下らない裁判に付き合っているヒマはないと繰り返して言うているのにどうしていらないことをするのよ!!アタシは思い切りキレているのよ!!アタシは、アイツに対しての言い分なんて一言もないのよ!!なのにどうして裁判所に行かないといけないのよ!!アタシは今バイト中だから帰ってよ!!」
「とし子さん…こっちは思い切り困っているのだよ…とし子さんが裁判所に来なかったどころか、あきとさんも裁判所に来なかったので裁判は延期になったのだよ…次の日程の都合がつかなくなった…と言うことは、とし子さんが困ることになるのだよ…それでもいいのかね!?」
「ど~でもいいわよそんなこと!!下らない裁判を起こしたあんたひとりがのたうち回っているだけじゃないのよ!!アタシは下らない裁判に付き合っているヒマは1分もないと言うているのに、あんたひとりが勝手に騒いでいるだけじゃないのよ!!」
「とし子さん、私はとし子さんを助けてあげたいから裁判を起こしたのだよ…」
「あんたね!!アタシは裁判を起こしてほしいと頼んでいないのよ!!頼んでいないのに、どうして勝手なことをしたのよ!!」
「とし子さんに何の相談もしなかったことはあやまるよぉ…」
「何なのかしらその言い方は!?それが人にあやまる態度かしら!!アタシのことをおちょくっているのかしら!?」
「おちょくってなんかいないよぉ…」
「あんたね!!今回の再婚は、あんたに言われてアイツと再婚をしたのじゃないのよ!!アイツの知人の男がとやかく言うから仕方なく再婚しただけなのよ!!」
「それだったら、裁判所へ行って裁判官にとし子さんの言い分を伝えればよかったのに…」
「はぐいたらしいわね!!アタシは下らない裁判につき合っているヒマは1分もないのよ!!」
「とし子さん!!あきひろさんも知人の男にだまされたと怒っているのだよ…とし子さんもあきひろさんの知人にだまされことを裁判所に言えばよかったのに…」
「どうして出席しなかったと言いたいのでしょ!!」
「とし子さん!!とし子さんは裁判があった日にどこで何をしていたのか!?」
「バイトしていた…ガソリンスタンドでバイトをしていたのよ…代休だったのに店長が来てくれと言うから、ピンチヒッターで出勤していたわよ!!」
「それじゃあ、何で裁判所に電話をしなかった!?」
「うるさいわね!!人の職場に土足で上がり込んで、ガーガーガーガー文句言いにきて、店に居座って、何を考えているのかしら!!帰んなさいよ!!」
「居座る気はないのだよぉ…私は、弁護士さんから頼まれているのだよぅ…」
「人の職場に居座るなと言うているのが聞こえないのかしら!!帰らないと、組長に電話するわよ!!」
「だから帰るよぉ~…だけどこのままでは帰ることができないのだよ~…私が弁護士さんに怒られるのだよ~」
「今駐車場に組長が乗っているキャデラックが止まっているから、組長に言いつけに行くわよ!!」
「とし子さん、危ないからやめなさい!!」
「あんたそう言って、高松でチンピラたちとひどい大ゲンカを起こしたじゃないのよ!!アタシは思い切りキレているのよ!!今から組長に言いつけに行くから!!」

アタシが組長に言いつけに行こうとしていた時、武方さんは恐れをなして逃げ出した。

奥のロッカールームに逃げ込んだアタシは、着ていたグレーのブラウスを脱いで、ロッカーにバシッと叩きつけた。

ブラウスの下は、クリーム色のブラジャーを着けていた。

アタシは、ロッカーの戸についている鏡に写っている顔を見つめた。

鏡に写っているアタシの顔は、真っ赤な目で髪の毛がほがそ(ぐちゃぐちゃ)になっていた。

アタシは、ほがその髪の毛を右手で思い切りかきむしった後、クリーム色のブラジャーを思い切りちぎって、ロッカーに思い切り叩きつけた。

むなしくなったアタシは、その場に座り込んで、声をあげて泣いた。
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