ただ西野くんが好き。




「俺のこと大好きなんだね、俺をチラチラ見てたね」



毎回補習が終わる度に近づいてきてボソッと言われる言葉。



夏休みでも教師は普通に仕事。しかも3年生の補習を担当しなきゃいけないから、普通の学校生活の方が忙しくない。


それでも、西野くんがずっと頭の片隅、いや全部を占めていることもある。


なんとか意識を目の前の生徒と問題に切り替えて、視聴覚室で生徒からの質問に答える。


みんな真剣に解き方を聞いてくれる。


最後には「先生ありがとうございました、分かりやすいです!」


と言ってくれているからモチベーションが上がるし頑張ろうと思える。


誰かに必要とされるのは嬉しい。逆に必要とされないのは悲しくて寂しいことで生きている意味があるのか、とまで思えてくる。



私が経験したからこそ分かること。



今日は2度目の外でのデート。


お盆休みの3日間が私の唯一の休みで実家には転任する前に寄ったから夏は行かなくてもいいっかと自己完結して、颯に時間を費やそうと思い、ショッピングモールに出かける。



服が好きな私は最近買い物していなかったから、ショッピングモールに行きたくなった。


前行った時は見つかってしまったけど、少し遠い所に行けば大丈夫だろう。颯も賛成してくれたし。


その後に颯の肉食いてえのリクエストに応えて焼肉屋に行く予定になっている。



高速道路に乗って2時間。


とっても大きいショッピングモールに着いた。


買い物を始めて10分で秋服やバッグを買った。悩まないで即決派だから、意外と時間かからずバッバと買ってしまう。


1人で会計をしていたら、颯は隣の水着店にいた。そしてずっと見つめてる1つのレディース用のビキニ。



「ごめん、待たせたね」


「ううん、美波、これ着て欲しい」


うん、言うと思った。でもこんな黒くて大人っぽいビキニ着る勇気なんてない。


「いーやーだー、それに海に行く時間ないよ?」


「あー、そっか、まぁ裸何度も見てるからいいっか」


さらっと店でなんてことを……!


恥ずかしくて赤面になってしまって下を向いてたら


「あれ、赤髪って…西野颯!?」
「絶対西野くんだよ!青藍の!」
「めっちゃカッコいいね!」


これはまずいパターンだ。同じ学校の生徒か分からないけど、私が先生であることを知っている人がいたら関係がバレることになる。それにまた写真を撮られるわけにはいかないし、これでまた颯が虐められるのはほんと御免。


ここは立ち去るのが1番だろう。


それにしてもキャーキャー騒がれている。颯はここまで人気でモテるのか…結構離れたのに。



それを颯も察したのか、私に話しかけずに店から出て、メールが来た。


「別行動で駐車場に集合」


別々で駐車場に行ったら既に颯がいた。


「美波、ごめん」


「大丈夫、別の場所に行こっか」


車に乗って昼に焼き肉を食べることにした。


「あの子達、知り合い?」


「宏介の大会を応援しに行った時にいた奴らかも、そん時もはしゃがれて応援出来ずに帰ったからな」


選手より観覧者が目立つってどういうことよ。


元のルックスもあるかもしれないけど赤髪だから目立つってのもある。


「そういえば、なんで赤髪にしたの?」


颯はしばらく考え込んで


「確か、4人で話したんだよな、俺ら心に深い闇がある人間だから外見は明るくいくかって、ただそれだけ」


その考えに辿り着くのが理解不能だけど、深い闇ってのが気になる。


颯だけではなく他の3人のも気になる。


「聞きたい?闇の話」


颯は察したのか、私に聞いてくる。


「うん、知りたい」


何故そう答えたか自分でもよく分からない。


でも、知りたくなった。彼氏のこと少しでも多く知りたいっていうのは心理的に普通だよね??



私たちは高速のPAに寄ってカフェで一休み。


そして、闇の話を聞く。


深い深い闇の話。
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