ただ西野くんが好き。




文化祭1日目は劇と有志発表とクラスTシャツコンテストが行われる。





「七瀬先生、大丈夫ですか?」


舞台裏で緊張してる私を気にかけてくれる松本先生。


「大丈夫です、劇頑張りましょうね」



そう言って、『ロミオとジュリエット』は始まった。



台本が大分アレンジされていて、元版ほどミステリアスで純愛物語ではなく、面白味が含まれていて生徒達は笑っていてくれて嬉しい。


そして、ラストシーン。


ロミオとジュリエットのキスシーン。


松本先生は私に直接キスして来た。


一瞬目を見開いてしまう。ここは角度で誤魔化す予定なのに…


先生方も驚いてるし、生徒や一般客に関しては悲鳴。


そして幕は閉じるまで、私の唇は松本先生によって塞がれていた。


「いや〜2人素晴らしいわ!お似合いだったわ!」


いやいや、島崎先生、辞めましょう。


恥ずかしいしキスは普通止めるでしょ!!


「七瀬先生」



「……はい?」


「話があるんでついて来てくれますか?」


「分かりました」


家庭科室。今は絶対誰も来ない学校の奥にある教室。



そこに入って、松本先生は、1回深呼吸して私を見た。



「好きです、いきなりのキスはすいませんでした、どうしても我慢出来なかった。俺と付き合ってください。」


「……すいません、付き合えないです。」


「分かってます、俺、3-3の西野と付き合ってるのは。」


「え、、、そうなんですか??」


「西野が七瀬先生を見る目が違うし、七瀬先生が西野を見る目もキラキラしてました」



「そうですか……」


バレないように頑張っていたのに、まさか気付いてたとは…少し恥ずかしい。


次なに言われるんだろう…沈黙がきつい。


松本先生は私の目をずっと見る。一瞬たりとも逸らさない。まるで颯みたいに。


でも、真っ直ぐな目というよりかは、なにかを企んでる目がする。



「俺は誰にも言いません。生徒と教師でも恋してしまうのは分かります。でも……俺に来て欲しい」



うぅ……


劇の時とは比べ物にならないくらいの深いキス。


大人なキスですぐ舌が入る。私は反抗して松本先生の胸を何度も叩くけど手を掴まれてもう反抗できない。



「バァーーーン」


え?何の音か分からず私も松本先生も音が鳴った方を見る。


そこには保健医の井上先生がいた。


すごい怖い目をして、私を見ている。


……と思ったけど、松本先生を見ている。


「松本先生、有志発表の準備を手伝って欲しいと学年主任が言ってましたよ?」


松本先生は一瞬パニックになって、


「あ、忘れてました、すぐ行きます」


私の手を離してそそくさと去っていった。


井上先生も一緒に体育館に向かうと思ったら、


「保健室に来て」


とだけ一言。


絶対見られたよね、キスする所。


叱られると思い肩をすぼめながら保健室に向かうと、



「颯……」


「連れて来たわよ、彼女先生」


「ありがとう」


「なんで、ここに……?」


「俺が黙ってる訳ないだろ、あんな公の場でキスされて連れて行かれて、でも俺が行くとバレると思って美紀ちゃんにお願いした」


「そう、なんだ……」


私はただ呆然として頷くしかなかった。


「え、待って、井上先生は知ってるんですか?」


「えぇ、もちろん、西野くんから聞いたわよ」


満面の笑みで私を見て言われても……


でも、井上先生と西野くんは前から仲よかった気がする。


なんか深い訳でもあるのかな、段々気になって来た…


「2人はなんか仲がいいんですね…」


自分でも訳わからない言葉を発したことに驚く。


「西野くんが高校1年生の時にずっと保健室に来てて西野くんの家族事情も知ってるしいろんなこと知ってるだけよ、いい相談役みたいな?それで七瀬ちゃんのことも聞いたってわけ、七瀬ちゃんが考えてるような愛情はないわ、安心して」


「ほう……」


「大丈夫、2人の交際は誰にも言わないから」


先生なのに、了承しちゃうんだ、と思う。そう言えば松本先生も誰にも言わないとか言ってたような……


それは私のため?学校のため?西野くんのため?なんのため?


ハテナマークが消えないからこれ以上は考えないことにした。


でも、教師でも生徒に恋をする気持ちが先生達には理解は出来るのだろう。


ただ、バレるのはまずいからバレないようにひっそりと付き合っていればいい話であって。


井上先生は理解してくれてただただ感謝。


「ありがとうございます」


「2人は見ててドキドキするからこのまま頑張ることね〜」


「…あ、はい」


ちょっと苦笑いになったかも。


「美紀ちゃん、俺もう行くわ」


「私いない方がいいかしら?」


「いや、俺これから寮に行くんで適当に理由つけて誤魔化してくれません?……美波のことも」


井上先生はニヤついて西野くんを見る。


そして、「分かったわ、七瀬ちゃん頑張るのね♪」


とだけ告げて私は腕を強く引っ張られて、
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