君が忘れた先でまた出会う

3



それからも小笠原は、何かあるたびに俺に話しかけてきた。

あの少し高めの声で、「高橋くーん!」と追いかけてくる。

そして、どうでもいいようなことを笑顔で話し続ける。

最初の方は「あー」とか適当な相槌をうっていたけど。

だんだんめんどくさくなって。

今ではほとんど無視してる。

それでも、懲りずに話しかけてくる小笠原。

いつだって、笑顔を崩さない小笠原。

こいつの神経はどうなっているんだ?



___________________


始業式から1ヶ月たったある日の放課後。

俺は図書館に本を返してから、廊下を歩いていた。

帰宅部は帰るし、部活がある生徒は部活に行ってしまっていて、校舎内にはほとんど誰もいなかった。

しんと静まり返った廊下を静かに歩く。

西の窓から差し込む夕日が、周りの世界をオレンジ色に染める。

ここだけが、時間が止まっているみたいに。

汚れたものなんて一切なく、ただただ輝き続ける夕焼け。

俺はこの時間が嫌いではなかった。





「……小笠原どう思う?」



 

夕日が作り出す幻想的な世界を味わっていた時だった。

近くの教室からよく聞いたことのある名前が聞こえた。




「ああー小笠原 愛蘭?かわいーよな。」





どうやら、話しているのは俺のクラスの男子3人だった。

クラスメイトに興味がない俺は、3人とも名前を思い出せなかった。




「スタイルいいし、何よりすっげー美人だよなー」

「成績もめっちゃいいらしいぜ」

「マジ!?あの笑顔、ホント天使だよなー」




……どうやら小笠原はモテるらしい。

全然知らなかった。

俺は悪いとは思いながら、会話を聞いていた。




「でも、やたらと高橋にばっか構ってね?」

「知らないのか?あいつら付き合ってたらしいぜ」

「マジ?でも、全然そんな風に見えなくね?」

「だよなー俺も噂だからよくわかんねーけど」 

「でも、何で高橋?あいつ全然喋んないのに」

「暗いよなー。小笠原にはもったいないって」




俺は笑い声が響く廊下を早足で歩いた。

素早く靴を履き替え、校舎を出る。

校舎を出てからも、俺のスピードは止まらなかった。

地面を踏みつけ歩く。

……何でこんなに俺はムカついてるんだ?

わからない。

けれど、俺は物凄く腹がたっていた。

俺と小笠原が付き合ってた?

んなわけねーだろ。

俺と小笠原は、4月に初めて会ったんだ。

俺はあいつのことなんて全然知らないし。

あいつが勝手に俺にかまってくるだけだ。

そのせいで、変な噂まで流されて。

目障りだ。迷惑だ。

俺は誰とも関わりたくないんだ。

ほっとけよ。



「小笠原には、もったいないって」




最後に聞いた言葉が頭から離れない。

俺に構うな。近づくな。

じゃないと……




____小笠原が傷つくんだから。


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