クマのぷー太郎
第1章 河童の川流れ編

1.出かける前の話

「なあ、ぷー太郎。河童を探しに行こうぜ」

唐突にツネ吉が言った。

「何?」

「河童を探しに行こうと言っているんだよ」

「ねえ、ツネッチ」と僕は言った。

ツネッチとは、きつねのツネ吉のことだ。
本名だと呼ぶ度に舌を噛みそうになるので、みんな彼の事をツネッチと呼んでいる。

「ツネッチ。冗談だとしたら面白くないし、本気だとしたら考え直すべきだ。きっとその探検は徒労に終わるよ」

僕は続けた。

「まさか河童なんてものが本当にいると信じてる訳じゃあるまいね?」

「いるよ」とツネ吉。

「本気かい?あれは只の迷信だよ。想像の産物だ。」

「いいや、違うね。河童は存在するよ」

ツネ吉が真剣な表情で言った。

「うさこちゃんが2日前に見たといっている」

「うさこちゃんが?」

僕は少し驚いて聞き返した。

「そうさ。沼を通りがかったときに偶然見かけたらしい。全身が緑色で、頭に皿、背中に甲羅を背負っていたというんだ。これが河童じゃなくて何だと思うんだい?」

「大きい亀かワニか、そんなものを見間違えたんだろう」と僕は言った。

「河童は存在しないよ。サンタクロースや妖精が存在しないのと同じことさ」

するとツネ吉は、はー、と大きく溜息をついた。

「なあ、ぷー太郎。お前さん、いつからそんな現実的な物の見方をするようになったんだい?」

ツネ吉は続けた。

「昔は一緒にツチノコとかコロボックルとか探したじゃあないか。あの燃えるような情熱は何処へ行ってしまったんだい?」

「昔は僕も若かったんだ」

若気の至りだ。

「それに結局、ツチノコもコロボックルもいなかったじゃないか」

「あの時はあの時だよ」

ツネ吉は2,3回咳払いをして、目を背けた。

「思い出してごらんよ、ツネッチ。僕ら酷い目にあったろう?」

僕は当時を思い出しながら言った。

「ツチノコのときは朝から晩まで歩き回って疲れただけで終わったし、コロボックルのときなんか森の奥に行き過ぎて帰れなくなったじゃないか。結局、3日間彷徨ったんだぜ」

「2日と18時間だよ。3日も彷徨ってない」

「同じことさ。とにかく、そういった無駄なことに労力を費やしたくないんだ」

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