バイオレット・ダークルーラー
「16時ぴったりか。水城さんは真面目だなぁ」
正直に生唾を飲んだわたしが
重たいドアを開けると、その乾いた笑い声が君臨するかのように響いた。
「…御堂、くん」
「あとノック3回なところも。ちゃんとマナーわきまえていて偉いよ」
ガチャリ。
…閉めたと思ったドアは、きちんと閉まっていなかったのか。
改めて鳴った音に対しても肩がはねるくらいにはドキドキしていた。
防音のせいか、耳に残り続ける圧迫感。空気さえも重たい。
そんな中でも至って冷静で、テーブルに左ひじをついて微笑む彼。
――…異様だ。
彼が、なのか。この空間が、なのか。…区別がつかないくらい。
「…なに?水城さん、怖いの?」
眉目秀麗な容姿と、わずかな音も拾う空間のせいで残響を紡ぐ低音。
…声に冷淡な迫力がのし掛かった。優しい声色は、微塵も気持ちがこもっていない偽り。
「あれ、俺言ったはずだよね?
――…一緒に堕ちてくれると思ってたよ、ってさ…!」
その恍惚に含まれるおぞましさが
彼によってすべてあらわになって
深みを増した声の艶やかさが、わたしの身体中を駆け巡った気がした。