こんな溺愛、きいてない!
細い引き込み道路の奥に佇む
タイル張りのマンションの前で立ち止まる。


「じゃ、うち、ここだから。
お願いだから、うちの住所、
ネットでばらまくことのないように
お願いします」


ぺこりと頭を下げてお願いすると、
遥先輩が口を尖らせる。


「どんだけ信用ねえんだよ。

つうかさ、
一応、鈴之助と同じ事務所で
仕事してんだから、
そんなことするはずないだろ。

それより、凛花の家、
うちから近いじゃん。

ラッキー、これからよろしくな♪」


「え? うそ」


「ホント。
ここから五分もかからない。

凛花が寂しいときには
いつでも添い寝してやるから
呼び出せよ」


「すぐに、
110番通報できるようにしておく」


「ひでえ」


そう言いながらも

遙先輩は
肩を揺らして楽しそうに
笑っている。 


もう、なにがなんだか
全然わからない。


「……さようなら、神楽坂先輩」


心の距離は、広まるばかり……


< 47 / 288 >

この作品をシェア

pagetop