本当は好きなのに



「……真鳳(まほ)……」


 ……やっぱり……?

 この子……松尾の……元カノの……。

 確か名字は香原さん……。

 香原さんは、もちろん私の名前は知らない。


 でも香原さんは同じ学年の中では少し有名だから……。


「……元気? 聖志……」


「……ああ……」


 ……なんか……。


「……真鳳は……?」


「……うん……元気よ……」


 ……なんか……。

 ……なんか……松尾と香原さん……よそよそしくない……?

 ……あっ……そうか……私がいるから二人とも話しづらいんだ。

 私は、それに気付いたから。


「……あ……あの……」


 よそよそしくなっている二人の間の中で勇気を出して声をかけた。


「どうした? 遥稀」


「あっ、あのね、私、ちょっと急ぐからこれで」


 ちょっとわざとらしかったかもしれないけれど。

 私はそう言って、そそくさと二人の間から立ち去った。


「遥稀‼」


 私の名前を呼ぶ松尾の声がはっきりと聞こえたけれど、私は一度も振り向かずに走り続けた。


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