『妄想介錯人』


「糞つまんねぇもん、読ませやがって……」



 灰色のヤニまみれのデスクは苛立ちまぎれに勢いよくついた両手を大きな音で反響させ、真里の口から漏れた言葉は静かに怒りを含んでいた。


 腐った男の書いた小説は、途中で終わっていた。
 タイトルは『僕の長い長い一日』となっていた。手がかりになればと読み進めてはみたものの、遺書のような内容でもなければ、たいして面白くもない、結末すら分からない。


 擦り減った真里の神経を逆撫でするには充分な代物だった。



「あれっ、真里さんも読んだんすか? それ」



 更に、神経を逆撫でする輩に真里は脳内のバルブをひとつ閉めて、何とか体裁を取り繕う。たかが、ウサギ一匹に苛立つ気力すら惜しい。



「なかなか面白いっすよね、それ。途中で終わってるみたいすけど」


(面白いだと……?)


 真里は閉めたバルブに一度手を掛けたが、すぐさままた元に戻す。何もこんなことでムキになる必要は微塵もない。





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