好きって言えたらいいのに
第四章 海と涙

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 お休みの日の朝、カーテンを開けると外はとても明るくて日差しが心地良かった。眩しさに目を細めて振り返る。壁に貼り直したポスターがいつもの笑顔を向けてくれていた。

「かさねー!起きてるー?」
 お母さんの声がして、ふすまが開けられる。
「へいちゃんがあんたに用があるって。下で待ってもらっているから、早く支度してきなさい。」
 ヘイちゃんが?何の用だろう?
 私はお母さんに返事をしてから、高鳴る心臓の音を深呼吸で落ち着かせて、大急ぎで着替え始めた。

「平志、いい加減にしなさいよ。」
「何が?」
「あんたのモラトリアムにうちのかわいい妹をつき合わせるなって言ってるの!」
「あー…、そうだよねえ。」

 顔を洗い身支度を整えてリビングに入ると、昨日から帰ってきていたお姉ちゃんとヘイちゃんがテーブルを挟んでいがみ合っていた。
 リビングには入ったものの、2人の話題の中心が自分だとわかり、少し居たたまれなさを感じる。

「え、えーと…おまたせ。」
 私の存在に気がつくと、2人はそれまでと異なり、にこやかな笑顔を私に向けてくれる。いつものことながら、その雰囲気がちょっと怖い。

「かさね、おはよう。よく眠れた?なんかこの馬鹿、用があるみたいだけど、聞かなくてもいいわよ。」
「おはよう、かさね。悪いんだけどさ、今日はこの馬鹿の最後のモラトリアムにつき合ってくれない?」

 ヘイちゃんがお姉ちゃんの言葉を引用し、自分を卑下して苦笑した。その指先には見かけない車のキーが音を立てて回っている。

「…え?」
 『最後の』という言葉の意味が気になって、私とお姉ちゃんは顔を見合わせて、もう一度ヘイちゃんを見た。

 
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