好きって言えたらいいのに

2


 …一体何時まで収録しているんだ、これ。
 この業界のブラックさはなんとなく理解している気でいたが、想像以上の長時間労働にげんなりしていた。
 もう何度目かの休憩時間となり、慌てて担当アイドルのそばへと向かう。
 アイドル…というには魔法が解けて、おっさんに寄り過ぎていると思うのだが…。
「平志さん、お疲れ様です。メイク直します。」
 パイプ椅子に座る平志さんに声をかけた。

 平志さんは汗を拭いつつ、ミネラルウォーターを飲んでいる。
「おー。正太郎君、ありがとうね。」
「平志さん…、タオルで汗拭くとメイク取れちゃうんで、できたらやめてください。俺拭くんで。」
 平志さんがクククッと笑う。
「正太郎君、顔に出過ぎ。もっとスマイル、スマイル。さあ、このおっさんに魔法をかけてちょうだい。」
 トップアイドルのそんな笑顔も、俺には効かない。
 ため息をついて、平志さんを見た。

「…かさね、めっちゃきれいになりましたよ。会いに行かないんですか?」
 平志さんの笑顔が固まったのがわかった。
 それからひと呼吸おいて、真剣な表情に変わる。悔しいけれど、絵になるような精悍な顔だった。

「あいつ、中学の時ミーハーな子らに利用されてさ。俺のことをSNSで拡散されて、商店街にマナーの悪いジャニスファンが大量に押しかけてきたことがあったんだ。それを長い間自分のせいだって責めていた。」
「え…?」
 初耳だった。
 でも確かに、かさねは平志さんやジャニスのこと、あまり口に出したがらない節はあった。…そういうことか。
「今、俺が不用意にあいつに会いに行って、メディアにでも叩かれたりしたら、あいつまた責任感じちゃうだろう?」
 平志さんが少し悲しそうな顔で笑った。

 本当に。2人して拗らせてて世話が焼ける。

「今、かさねフリーです。狙い時です。おっさんが二の足踏んでいるようなら、俺が掻っ攫っちゃいますからね。」
 そんな俺のため息交じりの言葉に、平志さんは
「…もう少ししたらさ、ちゃんと決着をつけに行くよ。」
と笑った。
 
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