【女の事件】とし子の悲劇・最終回~漆黒の火砕流
第5話
12度目の結婚生活が破綻したアタシは、ひどく痛む乳房(むね)の傷を抱えたまま信州松本へ逃げた。

信州松本へ逃げたアタシは、友人が暮らしているマンションに一時滞在した後、大名町通りにあるマンスリーマンションに移り住んだ。

アタシは、ここから人生の再出発をした。

友人からの紹介で城西1丁目にあるガソリンスタンドでバイトを始めた。

それだけでは足りないので、あがたの森通りにあるファミマとかけもちでバイトをすることにした。

他にも、松本市内のデリヘル店や地元のJリーグチームが主催のホームゲームの試合の日にスタジアムでサンドイッチ売りをするなどしておカネを稼ぐことにした。

アタシは、一定の金額が貯まったら名古屋へ移り住むことにした。

名古屋栄のテナントビルを借りて、小さいけれどマダムズバーをオープンして、お店のママになって、残りの半分の人生を生きて行こうと決意したアタシは、日増しにかたくなになった。

2028年8月3日のことであった。

テレビのニュースで、浅間山の警戒レベルが入山禁止の一歩手前に来ていると言うのを聞いたのと同時に、アタシの心に蓄積されていた50年分の怒りが高まった。

アタシをシツヨウに犯した元カレと元カレをレイプ魔にしたダンナと糸崎(三原市)の元カレの家の親族は、灼熱の溶岩を含んだ漆黒の火砕流を大量に流した後、鬼押し出し(江戸時代の浅間山の噴火の時にできた場所にある名所)へと葬り去る…

アタシは、般若(おに)と化した。

同じ頃であった。

兄から力で家から追い出された元カレは、となりの長野原町の社会福祉法人の施設の迎えの車に乗せられた。

元カレは、将来自暴自棄におちいる可能性が出たので、福祉施設に入所してヘルパーさんのお世話を受けることにした。

施設の車が走り去った後、元カレの兄はそばにいた女に『悪夢は終わったよ…』と言うた。

女は『終わったのね…』とほほえみをうかべた。

「もう一度やり直そうか…」
「ねえ…前のお嫁さんのことはいいの?」
「とし子のことか…とし子とは別れた…今は…お前を愛してる…」
「そうね…アタシもとし子にきらわれたから…もういいの…ねえ…なおきさん…アタシのことだけを愛して…」
「もちろんだよ…」

元カレの兄は、女と抱き合ってイチャイチャした。

こともあろうに、元カレの兄が好きだった女は敦賀で暮らしていたアタシの友人だった。

遠くに見える浅間山は、噴火口から恐ろしい黒煙をもくもくとあげていた。

そして同時に、地下のマグマの活動が少しずつ活発になった。

浅間山の火山活動と比例するように、アタシの怒りも少しずつ高まった。
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