トクベツナヒト。
人の不幸は蜜の味。
目が覚めて視界いっぱいに広がるのは、真っ黒な天井。


「いったいなぁ」


身体中が痛い。

昨日は抵抗なんてしなかったのに、なんで殴られたんだろう。

八つ当たり??

…それとも、学校でクラスメイトと話した事がバレたからだろうか。

まぁ、…ドウデモイイヤ。


ガチャ
「…起きたか」

「…」

「挨拶ぐらいしろよ」

「…」

ベットと鎖しかないこの真っ黒な部屋に、この男が入って来るのは毎日の事。


「おーい、姫ちゃん?」


…姫ちゃんというのは紛れもなく私の事だ。

姫野 梓-ヒメノ アズサ-。

大っ嫌いな両親が付けた、大っ嫌いな名前。

ガッ
「っ…」


腹を、殴られた。

…あー、そこ、多分痣になってた所。

痛いんだから、ちょっとぐらい手加減してよね。


「姫ちゃん、返事ぐらいしろよ。…あー、そっか。姫ちゃんは、鳳舞-フウマ-さんに怒られるのが怖いんだ?」

「……」

「弱虫だねぇ。というか、今更すぎない?姫ちゃんの身体は、とっくの昔に汚れてるんだから」

「………」


…怖い、なんて馬鹿馬鹿しい。

怖く思ったって、嫌だって思ったって何も変わらないんだから。

そんな感情、とっくの昔に捨てた。


ガッ
「けほっっ」


…痛覚は、慣れたとしても、消えることは無い。
本当に邪魔だ、こんな感覚、消えればいい。


「というかさぁ、毎日毎日喋らない姫ちゃんを起こしに来る俺の身にもなってくれない?」

「…」

「姫ちゃんは、なら来なきゃいい、とか思うのかもだけど。鳳舞さんがそれを許さないのは姫ちゃんが1番わかってるでしょ?」


あぁもう。


「…はぁ、もういいや。早く来てね、鳳舞さんが待ってるから」

「……」

「あ、そーだ。今日夜、鳳舞さん居ないからね。代わりに律斗-リツト-が来るってさ」


…大っ嫌いだなぁ。


「今日もせいぜい汚れなよ。…よくそんな汚い身体で生きていられるよね。理解できない」


私が死ぬ事を許してくれないなら、


「俺ならとっくに自殺してるよ」


…この世界にいる私以外の人間全員、


「あぁ、姫ちゃんは死ぬことも許されてないのか。可哀想に」



シネバイイノニ。
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