女嫌いと男性恐怖症:付き合いの手順
「すみません。晶さんの前に、姿を見せない覚悟だったのですけれど。貴美子さんは、納得されていないようでして」
「母は、関係ないでしょう」
クソババアと罵ってやりたい気持ちを、グッと堪えた。
「晶さんの大事な方は、梅元フーズにお勤めですか?」
「どうしてそれを」
「あの目障りな子を気にしているのなら、心配しなくてもいいのよ。手は打ってあるから。って、仰られて。それが、酷く怖ろしかったものですから」
貴美子が言っているところを想像して、背筋が凍る思いがした。
沙織に呼び出された時に感じた胸騒ぎは、これだったのかと、自分の勘の良さに感心する。
「そう。わざわざ、それを伝えに?」
「はい。貴美子さん、普段は立派な方だと尊敬していますけれど。晶さんのことになると、人が変わったようになって」
苦々しい気持ちが広がって、唇を噛み締める。
「唇、切れてしまいますわ」
沙織に指摘され、ハッと我に返った。
遥の唇を心配した昨晩を思い出し、頬を緩めた。
「取り越し苦労でしたでしょうか」
晶の柔らかな表情を見て、沙織は目尻を下げた。