死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
 
 穂稀先生はいい先生だ。俺はあの人を信頼していた。いつも俺のことをよく考えてくれているから。医者は患者を助けるのが仕事なのに、俺が手術をしたくないって言ってもダメと言わなかったし、フランスに行くのも許してくれた。そんな人が息子に虐待しているなんて考えたくなかった。でも、そう考えないとあの痣の説明がつかない。
 ……本当に俺は最低だ。あいつが虐待されていると知ったくせに、助けないといけないと思うくせに逃げてるんだから。


 ……俺ではダメなんだよ。


 俺といたら最悪、親戚はあづを殺すかもしれない。姉を殺した分際で、楽しそうにしてんじゃねぇと俺に婉曲(えんきょく)に伝えるために。
 俺を殺した場合は疑われるが、俺でなければ、あいつらが疑われることはないんだ。……それならこれでいいだろ。一緒にいたら虐待のことが解決する前に殺されるかもしれないんだろ? それならこれが最善だろ! そう思うのに、涙は一向に止まらなかった。
「うっ、うっ、ゲホッ、ゲホっ!」
 近くにあった公園のトイレに駆け込んで、泣きながら吐いた。
「うっ、うっ、うあっ、ああぁぁあああああぁ!!」
 絶叫。叫んでも叫んでも気が晴れない気がした。それでも、もう今度こそ終わりだ何もかも。

 初めて会ったのは死ぬのを決めた日だった。そもそもあの日、あいつらがいる前で死のうとしたのが間違いだったんだ。
 そうだよ。
 俺は目を覚ました日に言われた通り、あづに助けられたかったんだ。
 死ぬのがどうしようもなく怖かったんだ。死ななきゃいけないとわかっていながら。
 友達が欲しかったんだ。
 あいつらといるのが、楽しかったんだ。
 全部あづの言う通りだ。あいつが言ったことは、全て当たっている。
 それでも、俺はもうあいつのそばにはいれない……。
 
< 65 / 170 >

この作品をシェア

pagetop