死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「これ、亜月くんからよ」
 俺は受け取ると、チェーンをズボンにかけ、スマホをゴミ箱に向かって放り投げる。穴が大きかったおかげか、スマホは見事ゴミ箱の中に落ちた。

「赤羽くんっ⁉ 何してるの!」
 慌てて先生はゴミ箱のそばにいった。ゴミ箱に手を伸ばす先生に言う。
「……拾わなくていいです。それ、料金払ってるの親戚じゃなくてあいつらなので。あいつらも、俺が使わなければ金払うとしても安い額で済みますし」
「赤羽くん! 本当にそれでいいの? 後悔しない?」
「俺は捨てられたんじゃない。俺があいつを捨てたんです。だから、俺が後悔する資格はないんですよ。だから、後悔なんてしません。……もう、独りで死ぬ覚悟はできてます。まぁ、少し怖いですけど」
「赤羽くん」
 眼尻を下げ、悲しそうに先生は言う。

「……先生こそ、後悔しないで下さいね。先生なりに、後悔のない育て方をしてやってください」
 先生は口をつぐむ。
 俺はお辞儀をして、飛行機の搭乗口に向かった。

 先生は、希望通り、俺をフランスの一番高い病院に入院させようとしてくれた。でも、俺がこれから入院するのは、フランスで一番安い病院だ。親戚に払わないって言われたから。   
 看護師によると、先生は親戚にその治療費が一番安い額だと抜かしたらしい。
 俺をフランス以外の国に行かせるのを、先生は頑なに拒んだようだ。――フランスは日本と同じくらい医療設備が整っている国だから。
 大方、俺が手術をしたくなった時に問題なく行えるためだ。そんなことに気を回されても、俺は心変わりなんてしないのに。

 やっぱり、何度考えても想像できない。あの人があづに虐待してるなんて。何か事情があるのだろうか。
 でも、もうそんなの俺には関係ないことだ。
 あづのことは、きっと潤達が救ってくれる。そのハズだから。

 搭乗時間十分前に手荷物検査を済ませ、俺は飛行機に乗った。
 ……もう、本当にお別れだな。
 飛行機が上昇していく様子を見ながら、そんなことを思った。
 涙はもう流さない。泣く資格なんて、俺にはないから。……絶対、流さない。
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