漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~




 響は関係者を一人呼んでもいいと言われ、迷わずに千絃に渡そうと思った。上司である関は和歌が招待したようだったので、響は千絃を選んだ。けれど、しばらくの間、全く会わなくなり、しかも彼が反対をした舞台だ。呼んでもいいのだろうか。そう思いつつも、自分が頑張って稽古をしてきた成果を見て欲しかった。
 そのため『もしよかったら来てください』と手紙を添えて職場の彼のデスクの上にパスを置いた。次の日にはそれがなくなっていたので、彼は受け取ったはずだ。
 けれど、スタッフに関係者として月城という人は来ているか聞いても「きていませんね」と言われてしまった。5分前のブザーが鳴っても、同じ結果だった。


 「最高の作品が最高の仕上がりになり、成功しかない、そう言い切れるものに仕上がっています。皆さん、楽しみながら舞台を作りましょう」
 「「はい!」」


 スタート直前の監督の言葉に演者やスタッフが返事をする。緊張は最高潮になりながらも、皆頑張ってきた成果を見てもらえる時間が来たのだと、期待感をもっているようだった。
 ただ一人を除いては。


 「響さん、大丈夫?」
 「え……春さん。どうしたの?もう始まるよ?」
 「響さんが泣きそうだから。やっぱり来てなかったの?彼氏さん」
 「………うん。でももう本番だから気にしないようにしないと」
 「泣いてもいいよ?」
 「え?」
 「………響さんの役は暗殺者。けれど、やりたくてやってる仕事ではないって設定だ。無気力で殺す事を悲しんでいる役どころ。だから、少しぐらい泣いてもきっと役には入り込めるよ」
 「………そうかな?」
 「毎日同じ演技なんてできないけど、その時の最高の演技をすればいいと思ってる。だから、今日はそういうところをみせられたらきっとお客さんもグッとくるんじゃないかな?」



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