漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~




 「……っっ…………」
 「明日の10時に、またここに来い」
 「え?な、何を勝手に決めてるの?私はあなたと仕事なんて………!」
 「じゃあな、ひび」


 そう言うと、千絃は優雅に右手を挙げて去っていってしまう。
 

 「あなたに会いになんて行かないわよ!待ってても無駄なんだから………っていうか、その呼び方止めてよっ!」


 彼の背中に向けて抗議の声を上げるが、それに挙げた手をヒラヒラと振って返すだけで、千絃はさっさといなくなってしまった。


 あっという間の出来事だった。
 望まない再会の時間はあっという間で、彼は嵐のように響に爪痕を残していった。
 再会の話しだけではなく強引に予定を取り付けてきた。
 響は夢であったかのように思えるほどに冷静を装っていたものの、心の中は荒れていた。


 「今さら何言ってるのよ………」


 響は、顔をしかめて今はいない千絃の残像を睨んだ。けれど、それはただただ自分が悲しくなるだけだった。


 「行くはずないじゃない………」


 そう小さな声で呟きながら、響はまた桜の木を見上げた。
 先程、あんな事を思ってしまっていたから、再会してしまったのだろうか。
 

 「あなたのせいで会ってしまったじゃない」


 新緑の桜に向けて苦笑しながらそう声を掛ける。けれど、桜はサワサワと風で揺れるだけだった。








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