心を ほどいて  ~コーディネーター麻里絵

なんだろう、この涙は…

辛い話しを している時は 平気だったのに。


今更 音楽を聴いて 涙が出るって。


私は まだ何も 克服できてないの?

ううん。違う…多分 そうじゃない。


私は 口を押えて 涙を堪える。


「泣いていいよ。我慢するなよ。」

田辺さんは 後部シートに手を伸ばし

私に ティッシュの箱を 差し出す。


黙って 運転を続ける田辺さん。

ウインカーの カチカチという音が

まるで 背中を叩かれているような 優しさで。

曲が 変わっても 私の涙は 止まらなかった。


「ごめんなさい。今日の私 最低ね。」

ようやく 涙を抑えて 私は 田辺さんを見る。


「いや。むしろ 俺は 最高だけどね。」

チラッと私を見る田辺さんと 一瞬 瞳が交差する。

「麻里絵ちゃんの前の 高ーい壁が 少しだけ 崩れたかな。」

私は フフフと笑う。


「全部 崩すのは 大変だよ。道具も必要だし。」

「そうでもないかも。砂の壁みたいに 崩れ始めたら 一気に崩れちゃうかもしれないわ。」

泣き顔を見せてしまった きまり悪さで

私は 田辺さんを 直視できない。


「あの曲 リピートしちゃう?」

「意地悪ねぇ。」

頬を膨らませて 答える私。


信じられないくらい 胸が 軽くなっていて。


男の人と 2人きりなのに…




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