幸せにしたいのは君だけ
『今日は圭太と食事に行く約束なの』


副社長と出会う前の澪さんが、度々口にしていた。


『迎えは必要ないし、現地集合でいいって言ってるのに。もう大人なんだから迷子になんかならないのに』


ほんの少し不服そうに話す澪さんを宥める姿を、何度見かけただろう。

幼馴染みを見つめる佐久間さんの目は、いつもとても優しくて温かで、きっとふたりは結ばれるだろうと思っていた。


まさか、まったく関係のない副社長と結婚するなんて、誰が想像できただろう。

しかもふたりを結びつけただなんて。


世間の評判なんてあてにならない。


いつだって澪さんに向ける目は穏やかで、口調もとても優しかった。

キツイ言い方や眼差しなんて見た記憶はないし、いつだって物腰が柔らかかった。

面倒見がよくて気遣い上手だと言われているのも納得だと思っていたのに。


人は見かけによらないとは、よく言ったもの。

ふう、と大きな溜め息をつく。


私には関係ない。

そう思うのに、どうしてこんなに心が重たいのだろう。
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