幸せにしたいのは君だけ
頭の中がいっぱいで、知りえた情報でパニックを起こしそうだ。

今日はなんて目まぐるしい一日だろう。

思わずこめかみを押さえる。


「頭が痛い?」

「い、いえ、大丈夫です」


こめかみを押さえる私の手の上に、そっと彼の骨ばった指が触れる。

包み込まれるような感覚に心が落ち着かない。

いくら隣同士に座っているとはいえ、些細な動作ひとつ見落とさないこの人は本当によく気が回る。


「まだ最寄り駅に着かないから、寝てていいよ」

「本当に平気です」

「いいから、たまには年長者の言うことも聞いたら?」


揶揄うような口調に、小さく息を吐く。

念のため、合コンに向かう前に頭痛薬を服用したのに。

いや、そもそも頭痛の一番の原因は隣にいる人だけど、それはさすがに口に出せない。


もう、いいや。

この人にはきっと敵わないのだから。

ここで言い返してもきっと簡単にやり込められてしまうだけ。


「……じゃあ、少しだけ」


そう言って、ゆっくりと目を閉じる。

すると不安定に揺れる頭をそっと引き寄せられた。


ふわりと香るのはきっと佐久間さんの香り。

この香りは好きだ。

どこか守られているような気持ちになると口にしたら、彼はなんて言うだろう。


(もた)れた部分から温かな体温が伝わってくる。

頭を撫でてくれる感覚が心地よくて安心する。


「――おやすみ、意地っ張りなお姫様」


最後に聞こえた低い声。

そのまま私の意識は途絶えてしまった。
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