幸せにしたいのは君だけ
「下ろすのは無理。まだ寝ぼけてそうだし、危ないから」

「完全に目が覚めています! お、重いですからっ」

「全然重くない。むしろ軽いな。佳奈、ちゃんと食べてるか?」


……ダメだ、まったく聞き入れてもらえない。


この前、話した時から薄々感じていたのだが、圭太さんは意外に頑固だ。

人の意見を聞き入れているように見えて、実は自分の都合の良い方向にもっていく。

頭がいい人特有の仕業なのかわからないけれど、本当に一筋縄ではいかない。

澪さんから聞いていた話とは大違いだ。


「あ、あのタクシーは? 私、もしかしてあのまま寝てしまっていたんですか?」

「そう。最寄り駅についても起きないから、ここに連れてきた」

「ここ、って……」

「俺の実家」

「じ、実家!?」


とんでもない答えに血の気がひく。


実家って、なんで?

おかしいでしょ。

私なんてほうっておけばいいのに。

ううん、それよりも佐久間グループの御曹司にこんな真似をさせているなんて……。

そもそも実家って、ご両親がいらっしゃるんじゃ……。

こんな姿を見られたらなんて言えばいいの?

恋人でもないのに、お姫様抱っこをしてもらっているなんて……。


申し訳なさと羞恥で合わせる顔がない。

頭の中でぐるぐると様々な考えが渦巻く。
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