紡ぐべき糸

「どんなに頑張っても 私じゃ 敵わない。」

啓子は 小さく言う。


その人と 競うつもりなんて ないけれど。


聡が 振向いてくれるなんて 思ってないけれど。


聡を こんな切ない目に させる相手を 啓子は 許したくないと思った。
 


「俺も 全然 敵わないんだ。」

聡は 遠くを見るような 深い目をした後で そっと答えた。
 

「林さんとは これからも 一緒に仕事するわけだし。気まずくなるのは 嫌だからさ。俺のことは 普通の同僚と 思ってほしいんだ。」

聡は 気持ちを 切り替えるように 明るい声で 啓子に言う。
 


聡が 好きな人のことを 啓子に話してくれたのは 告白した啓子への 思いやり。


啓子の気持ちに 応えられないことを 誠意をもって 伝えてくれた。


そう思った時 啓子は 今までとは違う思いで 聡を見つめた。




< 132 / 227 >

この作品をシェア

pagetop