紡ぐべき糸

「横山さん。去年の人に まだ 片思いしているんですか。」

聡の優しさに 甘えて 啓子は 気になっていたことを聞く。
 

「いきなり、直球だね。」

と聡は笑う。
 
「その人のこと もっと 話して下さい。」

啓子が言うと、
 

「嫌だよ。減っちゃうから。」

と茶化して言う聡。
 

「横山さん いつから その人のこと 好きなんですか。」

聡の言葉に 笑いながら でも啓子は 続けて聞く。
 

「二十才の時からずっと。それから 会ってないんだけどね。」

正直に言う 聡の言葉に 啓子は驚いて、
 

「一度も?」

と聞き返す。
 

「うん、一度も。彼女 東京にいるから。電話とかLINEは しているけどね。」

聡の返事は 啓子を とても驚かせた。
 

「横山さんって 案外 一途なんですね。」

しみじみと言う啓子に 聡は 苦笑して
 

「そう見えない?」

と啓子の方を見る。

啓子も 聡を見つめて頷く。そして、
 

「私も、一途です。」

と言ってしまう。


聡は一瞬 啓子を 強く見つめて、
 

「止めてよ。俺 変な気起こすよ。」

と目を逸らした。
 

「そんな勇気 ないくせに。」

と頬を膨らます啓子に 聡は 声を上げて笑う。
 

楽しそうな聡の声に 啓子は 救われていた。


今日の時間を 聡は 楽しんでくれた。


聡の恋人には なれなくても こんな風に 楽しい時間を 過ごせることは 啓子にとって 大きな進歩だった。
 
 


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