紡ぐべき糸

女の子と 食事をするというのに 聡は とても 気が重かった。

ただ 食事をするだけなら これほど 憂鬱には ならないだろう。


面白おかしく話して 中途半端に 気を持たせ続けることは 簡単だった。
 

でも 啓子とは これからも 同じ職場で 働き続ける。


主任に 気付かれる程 啓子は 聡を 見つめているから。


早く諦めてほしい。


でないと 仕事に集中できないと 聡は思っていた。
 

コンビニで 啓子を助手席に乗せて、
 

「林さん、苦手な食べ物ってある?」

と聡は聞く。
 
「特にないです。」

と啓子は言う。
 
「お肉は好き?ステーキでも 食べようか。」

聡の言葉に 啓子は 少し微笑んで頷いた。
 

「林さん 家は どの辺なの。」

聡が聞くと 啓子は 会社の隣町を言う。
 

「会社、近いね。実家でしょう?遅くなって 大丈夫?」

聡が 話し掛けないと 啓子は 黙っている。
 

「はい。さっき 家に 連絡したから。」

啓子は 質問に答えるだけで 会話が弾まない。

聡は苦笑して、
 
「いつも まっすぐ帰るの?」

と聞いてみる。

まるで 面接のようだ と思いながら。
 

「時々は 寄り道もします。」
 
「へえ。どんな所へ?」
 
「買い物とか。友達と ご飯食べたり。」


啓子は ただ 質問に答えるだけで。


それでも 楽しいのかと 聡は 疑問に思う。
 



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