虹色アゲハ
そう、それはまさしく…
揚羽を絶望に陥れた、かつての少年だった。


「揚羽ちゃん、言った通り僕の次にいい男だろ?」
その声かけで。
釘付けになってた揚羽は、ハッと我にかえる。

「はい本当に。
思わず見惚れてしまいました」

「ええっ、浮気しないんじゃなかったのっ?」

「もぉ専務ったら、ヤキモチ妬いて欲しかったんですよ?」

「ははは、また一本取られたなぁ」

ボタニカルカフェで、この男がいると勘違いしたワンクッションを挟まなければ、動揺を隠せなかっただろうと。
ヒヤリとする揚羽。


その間。
久保井とやり取りしていた新人ホステスの柑愛(かんな)が、その水割りを用意して…

乾杯が終わると。

「久保井くん、彼女が僕のハニーの揚羽ちゃん。
べっぴんさんだろ?」
すぐにそう紹介された。


この男は私に気付くだろうか?
鼓動に押し潰されそうになりながら、恐る恐る視線を向けた揚羽は…

目が合った瞬間、不可抗力に心臓が止まる。


だけど。

「はじめまして、久保井仁希(くぼいまさき)です。
本当に綺麗な方でびっくりしました」

何の機微もない様子で、くしゃっと八重歯を覗かせて笑う姿に…
その懐かしくて残酷すぎる笑顔に…
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