策士な御曹司は真摯に愛を乞う
人の目を憚って、隠れてコソコソ、ランチタイムを過ごすような相手。
今、客観的に自分を見つめても、よほどワケありとしか思えない。


そこまで思考を働かせて、やっぱり私の脳裏を過ぎるのは夏芽さんだ。
もしも、私の『彼』が夏芽さんだとしたら、いろんなことに説明がつく。


私の卵焼きの味を知っている人。
つまみ食いされた記憶にも結びつく。
『社内』の人ではないけど、役員フロアにも普通に行き来できる彼なら、ランチタイムを隠れて一緒に過ごすことも可能だ。


それでいて、親友にも語れない『彼』――。
親会社の副社長、鏑木コンツェルン一族の御曹司となれば、もちろん軽々しく話せるわけがない。


「……美雨?」


箸を持ったまま固まっている私を、杏奈が不思議そうに上目遣いに探っている。
それにハッとして、私はぎこちなく笑ったみせた。


「えっと……やっぱり、内緒」


もったいぶって秘密にすると、彼女は「ええ……」と唇を尖らせた。
けれど。


「でも、美雨に限って不倫とか浮気とかはないだろうし。結婚ってことになったら、社内恋愛でも、話してくれるよね?」


自分で結論づけて、なかなか綺麗な色合いのお弁当を食べ始める。


「う、ん……」


私は曖昧に答えて、ハンバーグに箸を入れた。
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