策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「その相手が、俺だと?」

「他に、考えられません」


即答で畳みかけると、夏芽さんはふっと苦笑した。


「忘れてるくせに。どうして自信もって答えられるんだか」


どこか皮肉気な返しには、私も一瞬グッと詰まる。
だけど、彼の方に身体を向けて、グッと胸を張ってみせた。


「タイミング的にも、他の状況からも。私にそんな相手がいたなら、夏芽さん以外に心当たりはありません」

「………」

「私、昨夜からずっと考えてました。その……ちゃんと恋人になってないのに、夏芽さんとあんな関係になった理由」


さすがに、『身体の関係』とは言いづらくて、思わず目を泳がせる。
黙って聞いていた彼が、わずかに口角を上げた。


「セフレ関係……ってこと?」


歯に衣着せずにズバッと言われて、私はカッと頬を染めた。
夏芽さんは、そんな私を視界の端で確認して、軽く肩を竦める。


「デリカシーなかったな。ごめん」


素っ気ない謝罪には、勢いよく首を横に振って応えた。
今度は少しムキになって、グッと顔を上げる。


「正直、自分が信じられない……って気持ちが強いです。でも、自分のことだからわかる。私が夏芽さんの気持ちに返事ができなかったのは、鏑木の御曹司のお相手に、私は分不相応だっていうのが一番の理由です」


夏芽さんは唇を結んで、地上に上がるスロープに車を走らせる。
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