策士な御曹司は真摯に愛を乞う
私が室長と話している間に、先輩や後輩たちが続々と出勤してきていた。
突然一週間欠勤して、仕事に穴を開けて迷惑をかけたお詫びに回ると、みんな口々に私を心配して気遣ってくれた。


「昨日退院したばかりなんでしょう? 無理しないでね」

「困ったことがあったら、なんでも言って」


温かい言葉には、頭を下げてお礼を言う。


私が事故に遭って入院していたのは、みんなも知っている。
でも、記憶障害という情報については、今のところ室長止まり。
秘書室主任にも伏せられている。


そんな中で、当面の間とは言え、私が役員秘書業務から外れることを、室長はどう伝えるんだろう?
それ以前に、どんな仕事を与えられるのか……と、ほんの少し不安が過ぎった。


やがて午前九時の始業時間を迎えると、室長がみんなに声をかけ、臨時朝礼が始まった。
そこで、前もって言われた通り、私の業務について説明された。


「社内他部署には口外禁止、この役員フロアと秘書室限りの極秘事項となりますが、鏑木ホールディングスの鏑木副社長が、当面の間当社で執務されることになりました。このため、黒沢さんには、鏑木副社長の専属補佐に就いてもらいます」

「!?」


私は、ギョッと目を剥いて絶句した。
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