契約結婚!一発逆転マニュアル♡
ぜんっぜん伝わってないじゃん……。

自分の言葉の選択ミスと、遥翔の思考回路の鈍さに愕然とする。

確かに少し遠回りな言葉を選んでしまったかもしれないが。

いや、本当はかなり遠回しな言い回しをしてしまったことはわかっている。

けれど、最初にハッキリと拒絶してしまった手前、ストレートな物言いは憚られたのだ。

せめてなんとなくでも悟ってくれたら……。

そんな思いを込めて切り出してみたのだが、当然のことながら遥翔には伝わらなかった。

「……優しく……したいなって、ついさっきまでは思ってたんですけどね。もう無理かも」

「この短時間でどんな心境の変化があったんだよ」

「教えない」

「教えろよ」

「やだ」

「依舞稀ぃ」

少し困ったように名前の語尾を伸ばして呼ばれるのも、なんだか可愛く感じて好きかもしれない。

依舞稀はほころぶ口元を咳払いで誤魔化しながらそっぽを向いた。

「でもまぁ、何にしてもだ。依舞稀は本当によくやってくれてると思うよ。今思うと無茶苦茶な契約を結ばせてしまったと思う」

「そうですね……」

借金完済と懲戒解雇免除のために結婚して、自分と結婚して愛妻家にしろときたもんだ。

もし遥翔の出張がなく結婚を押され続けていたら、今のように遥翔と結婚していたかは定かではない。

空白の日数が依舞稀の心に大きな変化を生み出したのだから。

「依舞稀はこの生活をどう思っているかはわからないが、俺はやっぱり依舞稀と結婚してよかったと思ってる」

真剣な目で見つめられて、そんなことを言われてしまうと、依舞稀の心臓の高鳴りが更に加速を始めた。
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