契約結婚!一発逆転マニュアル♡
こんな些細なことを気にしてくれるのも、依舞稀に対する愛情が大きいことの表れだろう。

それを実感して、頬が緩んでしまった。

「そして日村光星」

「はいっ」

遥翔から名前を呼ばれるたびに、光星の背筋は冷たく凍るような感覚を覚える。

遥翔が敵と認識した相手へ与える威圧感は本当に恐ろしい。

「お前は二度と依舞稀を名前で呼ぶな。ぶん殴りたくなるほど不愉快だ」

「申し訳ありませんっ」

幼い頃からの関係性であるとか、いきなりそんなことを言われる理不尽さであるとか。

そんなことは遥翔にとって何の関係もないのだ。

現に光星はいとも簡単に遥翔に対して頭を下げて謝罪したのだから。

愛妻の名前を他の男が当たり前のように呼ぶ。

そのこと自体がどうしても許せない。

依舞稀を『依舞稀』と呼べるのは自分だけでいい。

遥翔の頭にあるのはただそれだけであった。

そして光星の頭の中にあるのは、もうこのまま引き下がって帰ってしまおうということだった。

しかし、そろりと後退りを始めた光星を、このまま逃がしてしまうほど遥翔は優しい男ではない。

「ちょっと待て」

遥翔がそう言ったものだから、光星と同時に依舞稀まで肩をすぼめてしまった。

「依舞稀の言ったことが、お前のメデタイ頭では理解できなかったようだから、もう一度俺が一言で解説してやろう」

いや、もう十分理解できてます。

そう言いたかった光星だが、もちろん言葉にすることはできない。

そして遥翔が放った一言は。

「お前はいらない。以上だ」

当然こういう言葉で締めくくられるのだった……。
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