片思いのあなたに再会してしまいました
5.あなたに触れられてしまいました
相変わらず仕事は順調に進んだ。
初めてのコンビニチェーンに対する提案は若干商品開発のような仕事でもあったから、自分で新しいものを生み出すような感覚が楽しかった。
その後も小さなアクシデントは数回あったものの製品は順調に出来上がり、そして8月上旬のエブリデイの社内コンペに出され結果を待つのみとなった。

今日はそのコンペの日。
私は初めて手掛けた自分の仕事が選ばれるのかどうか不安で仕方がなく、朝から携帯の画面をチラチラと見ては恭さんからの電話が来ないか待ちわびた。

「大丈夫だよ、石田さん。俺が見た限りとても良い提案だったと思うし。」

そう言って片倉さんは笑って私を落ち着かせようとしてくれる。
ふと画面を見ると先ほどまで対面で話していた片倉さんからLINEが届いており、
『上手くいったらお祝いで美味しいご飯食べに行こう』
と書かれていた。
私が片倉さんを見ると目が合って、そして彼はいつものようににっこりと笑った。

片倉さんとは依然として食事に行くばかりで、関係性は全く進展していない。
一緒に一夜を過ごしたことはおろか、キスもしていない。
おそらく初めての仕事にいっぱいいっぱいの私の様子を見て、今までは何もしてこなかったんだろうと思う。
だけどこの仕事がひと段落したら……。
そのことを考えると恥ずかしいような、だけど一方でもやもやするような、そんな複雑な感情に囚われるのであった。

昼休みを終えて業務を開始しようとした頃、私の携帯の着信音が響いた。
画面を見ると『エブリデイ 柴田恭平』と表示されており、私は勢いよく画面をタップして電話に出た。

「は、はい!石田です!」

若干声が上ずってしまった。

「もしもし柴田です…。石田さん、コンペの結果なんですが……

無事通りました!!!」

「ほ、ほんとですか…。あ、あ、どうしよう。すみません、嬉しくて、ちょっと力が抜けてしまって。」

私は本当にヘタヘタとその場にしゃがみこんでしまった。
そうしてしばらくして嬉しさがこみ上げてきて、涙があふれ出した。
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