片思いのあなたに再会してしまいました
「わかりました!」

新しい仕事はワクワクする。
実際に受け取ったファイルを開き詳細を確認するとそのコンセプトやビジョンはなかなかワクワクするもので期待が膨らむ。
かなり大掛かりだしすごく大変な仕事だと思うけれど、とても楽しそう。
そして再びエブリデイに関わって仕事ができる。

恭さんが私とつながりが持てる気がしてエブリデイに転職したと言っていたけれど、今ならその気持ちがわかる気がする。
たとえ直接関わることはなくとも、私の頑張りが回りまわって恭さんのためになるかもしれない。

精一杯頑張ろう。
私はそう決意して早速仕事に取りかかった。



久しぶりに訪れたエブリデイ本社は相変わらず立派で圧倒される。
特に変わったことはないはずだけれど、なんとなく緊張の面持ちで受付に向かいアポイントメントの確認をすると、お待ちくださいと言い渡されたのは以前と同じ25階のあの小会議室だった。

部屋に足を踏み入れると懐かしさがこみ上げてくる。
初めてこの部屋に入ったときは部屋からの眺めを
見る余裕なんてなかったけれど今は違う。
景色を眺めつつ、事務の方が持ってきてくださったコーヒーを飲むと頭がスッキリとした。

そうしてしばらく待っていると廊下から足音が聞こえてきて、ドアがノックされた。

はい、と返事をするとドアが開き男性が1人入ってきた。


その姿を見た瞬間、息が止まるかと思った。
笑うと細くなる目、少し高い鼻、薄い唇。
失礼しますと言うその低く響く声。
遠い外国の地にいるはずの彼が私の目の前に立っていた。

「き、恭さん……」

私がうわ言のようにつぶやいた声に反応して、彼はにこりと笑った。
私の大好きな笑顔だった。

「こちらのプロジェクトを担当させていただきます。柴田恭平です。よろしくお願いいたします。
それから…………
ただいま、詩織。」

私を呼ぶその心地よい声は5年前と何も変わらなかった。
私が思わず駆け出すと彼は強く強く私を抱きしめた。

「おかえりなさい、恭さん。」

5年ぶりの恭さんのぬくもり。

これからはこのぬくもりをずっと近くで感じていられる。
私は彼との始まりの場所で、なんの根拠もないけれどそう確信し、そして幸せをかみしめた。


9.両思いのあなたに再会できました

fin
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