俺様専務に目をつけられました。
十六時、パーティーが始まった。

暫く歓談の時間が過ぎ、司会者が壇上へ上がった。
まずは会長の挨拶、そして社長の挨拶。

挨拶の最後に『私的な事ではありますが専務である息子の・・・』と続けて婚約を発表するつもりなのだろう。前方のいつでも壇上に上がれる位置で佐伯物産の社長と佐伯が二人スタンバイしている。本来なら専務である俺も壇上もしくは近くにいなくてはならないが、入口付近で親父の挨拶を聞いていた。親父がその話を始めたらこの会場を後にするつもりだった。

「・・・・・今後とも東郷商事をよろしくお願い致します。」


周りから拍手がおこる。親父の挨拶が終わった?

親父も壇上から降りた。



婚約発表は?



俺は何が起きたか理解できずにいた。いや俺だけではない、佐伯親子も動揺しているようだった。

「お前に伝言。『お前の決意を聞いて一範もやっと目が覚めたようじゃ。婚約は白紙、お前の思うとおりにせい。一範の下で働く気持ちが完全に無いなら辞めてもよい。晴ちゃんを幸せにしてやってくれ。』だって、会長が。良かったな。」

これで晴香を迎えに行ける。





しかし佐伯親子が俺と婚約したと言ってまわっていたらしく招待客から『婚約おめでとう』と次々と声をかけられた。

「ありがとうございます。今日も一緒にご挨拶させて頂きたかったのですが、彼女が体調を崩しまして欠席させております。また紹介させて頂きますので、その時はよろしくお願い致します。」

とその度に相手は佐伯物産の娘ではないと遠回しに伝えていくと皆『佐伯物産の娘が相手では?』という表情をするものの誰が相手かはっきりと聞いて来る者はいなかった。
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